レコードを愛するゲストを毎回迎え、ELLA ONLINE STOREのラインアップから“いま欲しい5枚”を選んでもらうインタビュー・シリーズ“WHAT’S IN YOUR CART?”。
今回のゲストは、ソングライター/ギタリスト/プロデューサーなど多岐にわたって活躍し、現在の日本の音楽シーンにおける若きキーパーソンというべき称賛と信頼を集める岡田拓郎さん。リスナーとしても生粋の音楽オタクであり、レコード愛好家としても知られる岡田さんは、ありがたいことに日頃からELLA RECORDSのユーザーでした。「ここにも来てみたかったんですよ」というELLA RECORDS VINTAGEのレコード棚に目を輝かせながらも「欲しいものがありすぎてトロッコ問題並みに難しかった」という今回のセレクション。音楽に対するディープで真摯な接し方にハッとさせられるインタビューパートと共に、岡田さん“煩悶の5枚”をお楽しみください。
Interview & text: Mikiya Tanaka (ELLA RECORDS)
Photo: KenKen Ogura (ELLA RECORDS)
Furniture design & production, Interior coordination: "In a Station"
Special thanks to: Satoshi Atsuta
岡田拓郎の“いま欲しい5枚”
①Bobby Hutcherson / Components(1966)Stereo/US original
これは僕がBlue Noteの中で一番好きなレコードですね。実は最近までBlue Noteの作品ってそんなに聴いてこなかったんですよ。ジャズ自体は元々大好きで、高校生の頃はギター少年だったから、Grant Green、Kenny Burrell、Barney Kessel、Jim Hallあたりのギターものはずっと聴いてきましたけど、その後はMarc Ribotや、Sonny Sharrockみたいなフリージャズっぽいものとか、Derek Baileyみたいなインプロが好きになって、それプラスでECMって感じだったんですよ。だからこの10年ぐらいは、その辺や欧州系のジャズばかり集めてました。
それが最近、ふとしたきっかけでBlue Noteのジャズも聴いてみようかなっていう気分になって。というのは、今年の初めに急にRas Gにめちゃくちゃハマったんですよ。それまでは、自分がやってきた音楽とヒップホップってあまり関係のないものだと思ってたんですけど、J Dillaの本を読んだときに、感覚的には自分のやりたいことと近い部分もある気がするというか、興味を惹かれる部分がすごくあったんですね。それからDilla、Madlib、特にRas Gっていう感じで聴いていく中で、ブラックカルチャーにおけるジャズみたいなものに改めて興味を持って。で、そういえばギタリスト以外のBlue Note作品って、今までちゃんと聴いてこなかったなと思って、今年に入ってから熱心に聴いてます。レコード屋に入ったらまずBlue Noteコーナーをチェックするくらいの感じです(笑)。でも、今の自分にはハードバップというより、このBobby HutchersonとかAndrew Hillみたいな新主流派(※60年代にモードジャズを推進した気鋭の若手プレイヤーたち)と呼ばれる人たちの音楽がグッとくるんですよ。モーダルでありつつ、室内楽的な部分もあって、ECMともまた違うんですけど、ともすればアンビエント的に聴けるような曲もたまにあったりして。特にこのアルバムは好きですね。Bobby Hutchersonって、あの時代のミュージシャンの中でも絶妙な塩梅だと思うんですよ。ヴィブラフォンっていう楽器特有の静けさやクールさも相まって、フリーに行き過ぎることもなく、モーダル過ぎもせず、スピリチュアル過ぎもせず。抑制されたインテリジェンスを感じさせるけど、プレイにはフィジカルな情熱があるっていう、すごくバランスのいいプレイヤーだと思います。
ちなみに、僕が初めて聴いたBlue NoteのCDはGrant Greenの『Idle Moments』(1965)で、当時から大好きだったんですけど、あまり意識してなかったあのヴァイブが実はBobby Hutchersonだったんだって今年になって気づきました。
②Joe Henderson / Power to the People(1969)US original
Joe Hendersonは今年に入るまで本当に1枚も聴いたことなくて。これ言ったら怒られそうだけど、名前の響きで勝手にLou DonaldsonとかStanley Turrentineみたいなソウルジャズ系の人だと思ってたんですよ(笑)。ソウルジャズも好きだけど、自分で熱心に集めるほどではなかったので。それが今年Blue Noteを色々聴いていく中で『Mode for Joe』(1966)を聴いて「これは!」と思って、ちゃんと認識しました。あと、Joe Hendersonもやっぱり『Idle Moments』に参加してたんですよね。そういえばあのサックスすごい好きだったなって、自分の中でやっと繋がりました。
この人も独特ですよね。John Coltraneみたいな巨人とか、Sonny Rollinsとか、Stan Getzとか、60年代のサックス・プレイヤーにもその前の世代のスターを手本としたいくつかの系譜があったのかもしれないですけど、Joe Hendersonはそれらとも違う個性があって、聴いた瞬間に音が違うなって。すごく技巧的なわけでもないし、斬新なハーモニーをプレイしてるわけでもないんですけど、なんかグッとくるんですよ。ブルース的と表現するのが正しいかわかりませんけど、そういったものを感じますね。
Blue Note時代の作品も面白いですけど、今はBlue Noteの後のMilestone時代のレコードを熱心に探してます。68年から70年代にかけてのスピリチュアルなやつとかジャズファンク系のやつですね。この『Power to the People』もその1枚で、「Black Narcissus」っていう室内楽的だけどアフロ的でもあるすっごくいいメロディの曲が入ってるんですよ。でも僕、これは本当に欲しいレコードだから、アルバム通してはまだ聴いてないんです。
③杉本喜代志クヮルテット / Country Dream(1970)JPN original
これは自分が音楽を作る側だからっていうのもあるんですけど、ブラックカルチャーに対して日本人がどういう距離感でいればいいのかっていうのをよく考えるんですよ。で、今僕が興味のある新主流派の人たちが出てきた当時、日本のジャズメンはどんなことを考えてたんだろう、どんなものを作ってたんだろうっていうのが気になって、今年はそこの研究も趣味のひとつにしてました。その中で一番面白かったのがこのアルバムですね。
当時、新主流派をリアルタイムでうまく解釈できたギタリストって欧米でも本当に少ないと思うんですよ。筆頭だったのはJohn McLaughlinとLarry Coryellですけど、彼らは結構ロック的なイディオムじゃないですか。で、色々探してみて、個人的に一番的を射てるなって思うのが、イギリスのRay Russellなんですけど、いかんせん地味過ぎて面白味に欠けるところがあったりして…そんなところも好きではありますが(笑)。そんな中でこの杉本さんのレコードは、シンプルだけどロックすぎない豊かなハーモニーによるモーダル感があるし、「ジャズってやっぱりダンスミュージックだよね」みたいなキャッチーさも感じさせてくれるんですよ。当時の日本に新主流派の音楽をこういう風に解釈したギタリストがいたんだって、すごく興味深く聴きました。似てるギタリストがいないと思います。
④Ry Cooder & V.M. Bhatt / A Meeting by the River(1993)US盤
自分の音楽に異文化を取り込もうとするんじゃなく、自分から異文化の方に飛び込んでいくっていうRy Cooderの姿勢はリスペクトしてます。このアルバムは、Ryが非西洋圏の音楽に積極的だった時期の1枚ですね。V.M. Bhattは、自分で開発した“モハン・ヴィーナ”っていうシタールみたいなスライドギターを弾いてるんですけど、そのインド的な響きにRyのスライドギターが加わる感じが面白いんですよ。全く異なる文化圏の音楽がお互いの持ち味を譲歩するでもなく、ただ自然にそこで交わってるっていうか、ドローンを主体としたワンコードのラーガのスタイルとアメリカ的なオープンチューニングのスライドギターって構造的に重なる部分がたしかにあって、それを実践してみせたアルバムだと思います。このWater Lilyっていうレーベルは面白いものをいっぱい出してて、Ryがインドのフルート奏者とやった『Hollow Bamboo』(2000)とか、Jon HassellがDuke Ellingtonをやってる『Fascinoma』(1999)っていうアルバムも好きです。
⑤Morton Feldman / Viola in My Life/False Relationships(1971)US盤
僕の別の趣味として、クラシックも割とライフワーク的に集めてます。現代音楽とか、コンテンポラリーな室内楽とか、独奏とか。元々はレコードを買うほど接点のあるジャンルではなかったんですけど、ある時、下北沢のノアルイズ・レコード(現FUN FUN FUN RECORD)が、昔のブルースとかのSP盤と一緒にクラシックとか現代音楽を入れてる時期があって、そういうのを聴いてみると、普段ポップスを聴いてる人間の耳にも新鮮に響いたんですよ。それでノアルイズの阿部さんに「フォーキーにとか、アンビエント的に聴けるクラシックがあったら教えてください」みたいな感じで色々教わりました。僕が一番好きなのは、Marcel Muleっていうサックス奏者なんですけど、ピアノとデュオの10インチがあって、それなんかは意図せずドビュッシー的でもありつつ、今の耳で聴くと、エチオピアのエマホイさん(Emahoy Tsegué-Maryam Guèbrou)みたいな感じのピアノに、Marion Brownみたいなビブラートの利いたサックスが乗ってるみたいで面白いんですよ。
このMorton Feldmanは、すべてがすべてそういう風に聴けるタイプの音楽家ではないですけど、音数が少ない作品は、もちろん厳しい音楽ではありつつも、この極端なまでの静けさがある種アンビエント的に聴けたりもするんですよ。特にこのアルバムには空間を通り抜ける風のような音楽っていうイメージがあります。これをレコードで見るのは初めてですね。
Interview: 岡田拓郎とレコード
━━まずは、5枚に絞るのにかなり悩まれていたので、泣く泣く選外となったレコードにもスポットを当てておきましょう(笑)。他にどんなものが候補だったんですか?
岡田:ひとつはRalfi Pagan『With Love』のUSオリジナル盤ですね。Faniaのラテン・ソウルなんですけど、Breadの「Make It With You」のメロウなカヴァーが入ってて好きなんですよ。
John Faheyのオリジナル盤も色々ありましたよね。特に『Blind Joe Death』とか、Takoma Recordsの初期作品のオリジナルは見るの初めてかも。タイポだけのジャケットも含めて、存在感がやばいですよね。
あとはJohn Coltrane『A Love Supreme』の準オリジナルですね。完オリじゃなくていいから、ほぼオリジナルくらいのステレオ盤で、状態と値段が見合うようなものに出会えたら欲しいと思ってて、ずっと探してます。
━━岡田さんはご自身のアルバム『Betsu No Jikan』(2022)でも「A Love Supreme」をカヴァーされてましたが、自分の中で特別な位置を占めてる作品なんですか?
岡田:そうですね。このアルバムは、あらゆるジャズのレコードの中でも名盤として扱われてるから、10代の割と早い時期に、Sonny Rollins『Saxophone Colossus』とかMiles Davis『Cookin’』みたいな、いわゆるハードバップ名盤を聴いてる中で初めて聴いたんですよ。そうしたら出だしから今まで聴いてきたものとはまったく違ったし、途中でコルトレーンの囁きが入ってくるのにもすごくビックリして。なんか、音楽には歌が上手い下手とかではない世界があるんだって、その時に初めて思いましたね。でも、それなのになんかキャッチーで、ご飯を作りながらリフを口ずさんじゃったり(笑)。だから、正直僕自身も好きなのかどうかよくわからないし、このアルバムをちゃんと理解してるのかどうかもわからないんですけど、それ以来、頭から離れないレコードのひとつになってます。
━━ジャズといえば、先ほど杉本喜代志さんのくだりで“ブラックカルチャーと日本人の距離感”という話が出ましたが、そこを意識するようになったのはなぜですか?
岡田:僕は元々ブルースを聴いて育ってきた人間なんですけど、じゃあ日本人の僕がブルースのレコードを作れるかっていうと、なかなか難しいなと思っていた時期があって。というのは、日本人の僕がブルースをやる理由をうまく見つけられないというか、どういう距離感でブルースを表現したらいいんだろうって考えちゃったんですよ。もちろん日本にも素晴らしいブルースのプレイヤーはたくさんいるし、永井"ホトケ"隆さんは最高のブルースマンだと僕は思ってるので、あくまで自分がやる場合の話ですけどね。そんな感じで、同じブラックカルチャーであるジャズに関しても距離感を意識するようになりました。
━━その後、岡田さんなりの距離感は掴めましたか?
岡田:それなりには、ですかね。例えば、ブルースはどこから来たのかっていうことを考えてみると、“純粋なブルース”、“混じり気のないブルース”というものが果たしてあったのかといえば、多分なかっただろうって思うんですよ。ブルースもジャズもアフロ系の人たちのカルチャーである一方で、西欧のクラシックのハーモニーがなかったら成り立たなかった音楽だし、あらゆる音楽、特に20世紀以降のものって、色んな文化が混ざって出来たものばかりじゃないかって思って。そこに思い至ると、敬意のない植民地支配的な音楽のあり方にはやっぱり僕は共感できないけど、異文化の人がそれに対してしっかりリスペクトして接することは、様々なバックグラウンドがある人々が共に生きていくには大切なことと再確認しました。Ry CooderとかHerbie Mannは後者で、僕はそういうところが大好きなんですけど。
あと、ちょうど今年、シアスター・ゲイツ(Theaster Gates)っていうシカゴの現代美術家の個展を六本木に観に行ったんですけど、そのテーマが「アフロ民藝」だったんですよ。彼はアフロ・アメリカンだけど日本の常滑で陶芸を学んだ人で、アメリカでのブラック・パワーの運動と日本の民藝運動に共通性を見出してるんですよね。その展示にも感化されました。「アフロ民藝」とか言ってもいいんだなって(笑)。もちろんシアスターは民藝運動における帝国主義的な側面にも触れてましたけど、今日のような困難な時代にこそ、過去から学び、それを再検証して次へ繋げていく事の大切さも考えさせられました。
━━なるほど、そうして掴んだ異文化への距離感やリスペクトは、ジャズにアプローチした岡田さんの近作にもたしかに表れています。それに加えて、岡田さんは本当に膨大かつ幅広い音楽を聴いてきているので、例えば先ほどもMarcel Muleの形容にエマホイさんやMarion Brownの名前が出てきたり、フィールドや時間軸を軽やかに飛び越えて、縦にも横にも音楽がリンクしていくのが面白いですよね。私自身もそういう音楽体験が糧になってるので、音楽が好きな人にはできるだけ色んな音楽を垣根なく聴いてほしいと常日頃から思ってるんですが。
岡田:僕のレコードライフって、リアルタイムで「うわ、こんな音楽聴いたことないな」っていう新鮮なレコードに出会ったら、「もしかしたら過去にもこういうことをやってた人がいるんじゃないか」って遡って探していくのが基本軸になってるんですよ。 例えば、Pino PalladinoとBlake Millsの『Notes With Attachments』(2021)を聴いた時も、アフロ・ファンク的なものをこんな風に解釈する余地がまだ残されてたんだって驚いたんですけど、そこから過去に似たことをやってる人はいないかってサウンドの源流を辿っていく中で、Ry Cooderを再発見したり。やってること自体は違うんだけど、似たようなことを考えてたんだろうなって思うと、また新鮮に聴けるんですよ。Blue Noteを最近聴いてるのもそうで、Ras Gとか、Jeff Parker、Makaya McCravenあたりの解釈を経由した上で再び過去のジャズに触れてみると、また新しい発見があったり、色々リンクしていきますよね。
━━そういう体系的・探究的な音楽の聴き方をするリスナーは、特にサブスク以降、確実に減っているので、それによって視野が広がる楽しさみたいなものはもっと伝えていきたいですよね。本当はもっと掘り下げたいテーマなんですけど、今回の本筋から逸れすぎるので、この辺でレコードの話に戻しましょう。
━━まずはレコードとの出会いについて教えてください。
岡田:中学生の頃、三重にあった父の実家の納屋を整理してる時に、父と叔母が昔聴いてたレコードとプレイヤーが出てきたんですよ。もう針はダメダメだったけど、一応電源は入って音は出たんです。そこでたしかT. Rexとか吉田拓郎さんを聴いたのが、針で擦ってレコードの音を聴いた初めての体験です。
━━その頃、CDなどで音楽はすでに聴いてたんですか?
岡田:そうですね。僕、小5でギターを始めたので、その頃から音楽もずっと聴いてて、すでにCDは集めてました。高校の頃は、親から電車とバスの定期代をもらってたんですけど、駅から学校までバスで片道20分くらいの距離を毎日頑張って歩いて定期代を浮かせて、帰りにディスクユニオンで安いCDをたくさん買うっていうのをやってました(笑)。
━━レコードに初めて触れた時にピンとくるものはありましたか?
岡田:はい、ピーンと来ましたね。なんか僕、子どもの頃から古い物に惹かれる傾向があったんですよ。最初に強い興味を示したのがクルマで、幼稚園の頃にクルマの図鑑とか、おじさんが読むような絶版車カタログとかを取り憑かれように読み漁ってて(笑)。フォルムとか色味で旧車に惹かれたんですよね。
で、子どもだと当然電車も好きなわけですけど、それも古い車両の方が好きでした。僕は福生だったので、青梅線には103系っていう通勤電車の名車がまだギリギリ走ってて、小学校の終わりの頃にそれのさよなら運転があるからってことで、友達と乗りに行ったりしてましたね。
━━子どもの頃から古い物が好きっていうのは珍しいですね。
岡田:はい、幼稚園の頃からずっとそう言われ続けてきました(笑)。なんならミュージシャンになってからも言われてます。なんか昔から古い物の方がしっくりくるんですよね。僕、高校、大学でも絶対シャーペンは使いたくないと思って、ずっと鉛筆しか使ってこなかったですもん(笑)。学校に鉛筆削り持ってって(笑)。
そういうものが根っこにあるから、レコードがあるんだったらCDじゃなくレコードで聴きたくなるっていうのは、自然な流れではありましたよね。それで高校最後の夏休みに父の実家からプレイヤーを持って帰ってきたんですけど、実家が関西だったんで、東京だと周波数の問題で正しい速度で再生できなくて(※関西は60Hz、関東は50Hz)。ただ、大学受験の直前だったので、受験勉強しながらプレイヤーいじるのはやめておこうと思って(笑)、受験が終わった頃くらいにプレイヤーを直してレコードを買い始めた感じですね。
━━その時、最初に買ったレコードって覚えてますか?
岡田:めっちゃ覚えてます。珍屋で3枚買ったんですけど、Jackson Browneの『Late for the Sky』と鈴木茂さんの『BAND WAGON』、あとはたしかPocoのライヴ盤だったと思います。
━━ゼロ年代の高3にしては、なかなかウェスト・コーストな顔ぶれですね。
岡田:そうですね。僕、小5の頃にJesse Ed DavisとかMike Bloomfieldにハマッて、中学以降もそういうオールド・ロック的なものをずっと聴いてたので。
━━小5でJesse Davis! 尋常じゃない小学生ですけど、どうやったらそこに辿り着くんですか?
岡田:父がフォーク世代だったんで、昔弾いてたアコギが押入れにしまってあって、それを僕が引っ張り出してきて弾き始めたんですね。そしたら父が、意外とこいつ弾けるから面白いなってことで、小5の時に「ギター・マガジン」を買い与えてくれて、たまたまその号がスライドギター特集だったんですよ。そこにDuane Allman、Jesse Ed Davis、Mike Bloomfieldなんかが載ってて、譜面も付いてるから、まずはそれを練習してみようってことになったんですけど、手元に音源がないじゃないですか。で、どれから始めようって思ったときに、Mike BloomfieldのスコアのところにBob Dylan『Highway 61 Revisited』のフレーズって書いてあって、それが一番音数が少なくて簡単そうだったから、まずそこから手を付けてみました。で、次に簡単そうだったのがジェシエドだったんですよ。ジェシエドが弾いてるJohn Lennon「Stand by Me」のスコアが載ってたんですけど、ちょうど母がそれが入ってるCDを持ってて。そんな感じでJesse Ed Davisを認識しました。そこから色々のめり込んでいった感じですね。
━━なるほど~無邪気にド渋いですね。それってやっぱり福生っていう環境も大きかったんですか?
岡田:僕が福生の悪い大人たちと知り合うのは高校に入ってからなので(笑)、特にそういうわけでもないと思います。親が米軍基地関係の仕事というわけでもないですしね。ただ、中学の頃は周りに結構音楽が好きな友達がいて、CSN&Yの『Déjà Vu』が好きな子とかもいたんですよ。その子の親は翻訳事務所をやってて、仕事でアメリカに行ったりしてたんですけど、彼はギターもやってたのでよく遊んでましたね。だから、たまたまそういう友人に恵まれたってことだと思います。
━━レコードに出会ってからは、CDと併行して買ってたんですか?
岡田:いや、もうレコードしか買わなくなりましたね。当時は新品のCDを買うよりも中古レコードの方が安かったっていうのもありますけど、それ以上に、ネットの音楽ブログとかで情報を仕入れてると、CDよりレコードの方が知らない音楽が圧倒的に多かったんですよ。それが楽しくて。CD化されてる昔の音楽って、すでに評価されてるからリイシューされるわけじゃないですか。でも、そこからこぼれ落ちていった音楽がこんなにあるんだっていうのを知って、すごくワクワクしました。今だと90年代のCDしかない音源みたいなものは買ってはいますが。
━━レコードの廃盤とかラベルにも詳しそうですけど、そういう世界にハマっていったのはいつ頃ですか?
岡田:もう昔からですね。凝り始めると突き詰めちゃうタイプなんですよ。例えばクルマでもマイナーチェンジのたびに、丸っこかったテールランプのデザインが角ばったものに変わったとか、そういう細かい変化が色々あるじゃないですか。そういうのを頭に入れていくのが好きだったんです。だからレコードに関しても「ラベルにJASRACマークが付いてるから、これはオリジナルじゃないな」みたいなことを自然とやるようになりましたね。生きてくためにはまったく必要のない知識なんですけど(笑)。
━━ちょっとちょっと、その知識で生きてるレコード屋が目の前にいます(笑)。
岡田:スイマセン!(笑) 僕もその知識のおかげでこうやってレコードの企画に呼んでもらえてるんで、ちゃんと役に立ってました(笑)。
━━ラベルの見分け方などは誰かに教わったわけでもなく?
岡田:大学時代に友達と森は生きているを組んだんですけど、彼らもそういうのが好きな人たちだったから、みんなで「これオリジナルじゃないじゃん」みたいな話をしたりしてました。といっても、みんなお金もないから高いオリジナルを買えるわけでもないし、当時は特にこだわりがあったわけじゃないんですけどね。
あと、そんな前知識を持った状態で、大学卒業後に吉祥寺のとあるレコード屋さんで何年か働いたんですけど、それも大きかったですね。そこの店長が本当に怖くて怖くて、しょっちゅう叱られては泣きながら値付けしてました(笑)。一度はレコード屋で働いてみたくて入ったんですけど、こんなに大変な仕事だと思いませんでした。
━━それはそこのお店だったからだと思いますよ(笑)。
岡田:(笑)。でも、その店長はめちゃくちゃ熱い人で、僕も知らないことがいっぱいあったから、色々と教え込まれましたね。毎日通販サイト用に楽曲の試聴箇所を取り込んでいくんですけど、「岡田くん、ここやないやろうが!」みたいに結構マジで怒られるんですよ。で、半べそかきながらも、内心「絶対ここの方がいい」とか思ってたり(笑)。でも、今ならすごく理解できるんですけど、当時店長が求めてたのってDJの人が反応するような試聴パートだったんですよ。僕はただ音楽が好きなリスナーだったから、耳を傾けるポイントが違うじゃないですか。だから、そういう“DJ耳”みたいなのが最初は全然理解できなくて、「ドラムだけのこんなところ切り取るんだ」とかってビックリしました。でも、そうするとたしかにそのレコードが売れていくんですよ。そういう感覚はその頃に叩き込まれましたね。いい経験でした。
━━現在はどのくらいの頻度でレコードショップに通ってますか?
岡田:大学生の頃は本当に毎日行ってましたけど、さすがに今はその頃と比べると頻度は落ちましたね。でも、平均するといまだに1日1枚以上のペースでは...。僕は今も東京の郊外に住んでるんですけど、都心に住まない理由のひとつが「レコ屋が近すぎると破産するから」なんです(笑)。でも、ミュージシャンの仕事をしててありがたいのは、ツアーで色んな場所に行けるし、ライヴも渋谷や新宿が多いじゃないですか。そういう時は、リハの後に僕だけ「ちょっと買い付け行ってくるわ」って抜け出してます(笑)。ツアー先でも必ず行きますね。現地に着いたら、ホテルの場所を検索するより先に、会場の近くに中古レコード屋があるかどうかを探しますから(笑)。
━━結構ネットも駆使しながらレコードハンティングをしてそうですよね?
岡田:そうですね。一応ネットで育った世代ではあるので、ヤフオクやメルカリも欠かせない存在です。思いがけず相場より安く買えることもあるので、必ず寝る前に30分くらいパトロールするようにしてます(笑)。ちゃんとウォントリストの通知も来ますよ。前に欲しいレコードの落札時間がライヴと重なった時、こっそりライヴ中に携帯見ながら競り落としたこともあります(笑)。怒られるので誰のライヴとは言いませんが(笑)。
━━いま所有しているレコードの枚数は?
岡田:ちゃんと数えてませんけど、3年くらい前に引っ越した時に3~4000枚あるなって思ったんですよ。その後も1日1枚ペースで買い続けてると考えると…。でも、妻に怒られそうだから、今は売りながら買ってて、極力スペースは増やさないようにしてます。
━━レコードコレクションはどのように管理してるんですか?
岡田:1軍のレコードだけリビングに置いてあるんですけど、それ以外は空いてる1部屋にしまってあって、随時聴きたいものを入れ替えたりしてる状態です。ロック/ポップス、SSW、ソウル、ジャズ、エクスペリメンタル、クラシック、ワールドみたいな感じで、割と一般的なレコ屋に近い感じで分けてますね。その中で量の多いジャンルはざっくりABC順に並べてます。それ以外はサウンドのムードごとに分けたりとか、自分だけ分かればいいやって感じですね。あとコロナ禍に、レコ屋に行けない日々が辛すぎて、それを紛らわすためにいわゆる“エサ箱”型の縦に収納するラックを1棚だけ買ったんですよ。そこは最近買ったお気に入りだけを入れる“NEW ARRIVAL”にしてます(笑)。ちなみに僕は、レコードを外袋には入れない派です。ジャケットが擦れちゃいますけど、その方が通気性がいいっていうのを信じてます。
━━今までこの企画で何人もインタビューしてきて、ABC順に分けてる方は岡田さんが初めてです。やっと会えました(笑)。
岡田:逆に皆さんどうやって探してるんですかね? それこそ谷口(森は生きているのメンバーだった鍵盤奏者の谷口雄氏)が、前に曽我部恵一さんの家に行った時に、何かのレコードを聴きたくなって曽我部さんが部屋に探しに行ったきり1時間戻ってこなかったって言ってましたよ(笑)。
━━それってThe ByrdsのUKオリジナル盤じゃないですか? このインタビューの初回ゲストが曽我部さんだったんですが、まさにそのエピソードを曽我部さん自身がおっしゃってました(笑)。それで見つからなかったのが相当悔しくて、ちゃんと並べることにしたそうです(笑)。
岡田:絶対それですね(笑)。
>>> WHAT’S IN YOUR CART? 曽我部恵一編をチェック
━━オリジナル盤へのこだわりはありますか?
岡田:できれば原盤レーベルの国のオリジナルが欲しいですね。ただ、今年はBlue Noteを集めてますけど、さすがにオリジナル1枚50万とかは無理すぎるので、Blue Noteに関しては独自のルールで、50~60年代の作品は青白LIBERTYラベル(画像左)までは良しとしようって感じにしてます。それ以降はラベルのデザインが結構変わっちゃいますからね。音符ラベル(画像右)を買うのはやむを得ない場合だけです(笑)。
やっぱり思い入れのあるものはできるだけオリジナルで持っておきたいですよね。今でも覚えてるのは、Karen Daltonのファースト(It's So Hard to Tell Who's Going to Love You the Best)で、最初はリイシューを新品で買いました。で、昔からオリジナルを狙ってたんですけど、2015年のディスクユニオンの年末セールで、1万5000円くらいのものがさらに20~30%引きで買えるチャンスに出くわして。お金なかったから買っちゃったら年越せるかなって感じでしたけど、きっと気持ちは温かいだろうと思って買いました。
あと僕、ジャケットのコンディションは全然気にしないんですよ。なんならボロい方が好きかも。その方が安いっていうのもあるけど、ジャケットにリングウェアが付いてるようなやつの方がなんかレコードっぽいじゃないですか。綺麗なオリジナル盤とかだと、保管に気を遣っちゃうし。あと日本盤に関しては、帯も無くて全然大丈夫です。帯を破かずに後世に残せる自信がないので(笑)。なので帯なしを積極的に買ってます。
━━今のレコード・ウォントリストのトップは?
岡田:やっぱりさっきも出たJohn Coltrane『A Love Supreme』の“大体”オリジナルのステレオですね。お金さえ出せばどんなレコードでも買えますけど、僕は状態悪くてもいいから相場より安く手に入れたいっていうタイプなので、ちょうどいい値段のものに巡り合えるまで何年もかけて探してます。とはいえ、近年の相場の推移を見ると、いつでも今が一番安いともいえますが...。
あとは今回選んだJoe Hendersonも結構上位です。自分がハマる音楽ってその都度変わっていきますけど、今年はRas Gに始まってジャズモードですね。
━━岡田さんにとって“良いレコードショップ”とは?
岡田:なんですかね~。僕自身は、膨大な量のレコードが並んだ大型店に行って、誰に教わるでもなく一人で掘るっていうことが勉強になった面も大きいので、そういう意味では“とにかくレコードの量が多い店”っていうのも、いい店のひとつだと思います。
その一方で、コミュニケーションのある個人店もいい店だなって思うところは多いですね。僕は学生時代は本当にしつこく毎日通ってたから、そうするとお店の人も顔を覚えてくれて、そこから「今こういうの探してるんですけど、なんかありますか?」みたいなコミュニケーションが生まれて。そうやってお店の人から教わることもすごく多かったし、そのお店で偶然知り合ったお客さんと情報交換することもあったりで、そんなことも僕の人生の一部になってます。
━━東京以外で個人的にお気に入りのレコードショップはありますか?
岡田:新潟のSHE Ye, Ye Recordsですかね。通販も含めて昔からお世話になってます。オブスキュア系のセレクトがすごくて、普通のお店なら“OTHERS”コーナーに行くような商品だけで成り立ってる感じのお店なんですよ。独自の進化を遂げた日本が誇るレコードショップだと思います。