#008 - スカート澤部渡の“いま欲しい5枚”
WHAT'S IN YOUR CART?

#008 - スカート澤部渡の“いま欲しい5枚”

レコードを愛するゲストを毎回迎え、ELLA ONLINE STOREのラインアップから“いま欲しい5枚”を選んでもらうインタビュー・シリーズ“WHAT’S IN YOUR CART?”。

今回のゲストは、デビュー以来、圧倒的なポップセンスで尽きない泉のごとく名曲を生み出し続けるスカートの澤部渡さん。昨年9月には、楽曲ごとにフィーチャリング・アーティストを迎えた最新EP「Extended Vol.1」をリリースし、さらに11月には目下最新アルバムであるメジャー4作目『SONGS』(2022) のアナログ盤が発売されたばかりです。

SNSでもレコードにまつわる投稿を日頃からよくされている澤部さん。携帯の膨大なウォントリストと照らし合わせながら、ELLA RECORDS VINTAGEのラックを隅々までチェックして選んでくれたのは、レコードでは持っていない「シンプルにいま欲しい5枚」。澤部さんのボーダーレスなリスナーぶりをウィットに富んだトークと共にお楽しみください。

Interview & text: Mikiya Tanaka (ELLA RECORDS)
Photo: KenKen Ogura (ELLA RECORDS)

Furniture design & production, Interior coordination: "In a Station"
Special thanks to: Satoshi Atsuta

スカート澤部渡の“いま欲しい5枚”

①The Zombies / Odessey and Oracle(1968)US original

The Zombies / Odessey and Oracle(1968)
澤部
これを初めて聴いたのは高校生の頃だったかな。大好きだった空気公団の山崎ゆかりさんがインタビューでThe Zombiesをオススメしてたので、まずは『I Love You』っていう日本企画のベスト盤をCDで聴いてみて、大好きになりましたね。ただ、シングル集みたいな編集盤だったので、このアルバムの曲はそんなに入ってなかったんです。で、ちょうどその頃、ソフトロックをもっと聴いてみたいと思ってて、当時手伝ってたイベントの主催の人にオススメを5枚教えてもらったんですけど、その中にこのアルバムが入ってたんですよ。アルバムとして聴いたらやっぱり印象が全然違って、衝撃的でしたね。それからは夢中になって聴きました。とにかく曲がいい。アレンジもいい。本当にいい曲しか入ってない。あと、このアルバムの何がいいって、メロトロン使いが最高なんですよね。予算がなかったが故にオーケストレーションをメロトロンでやってますけど、そういうのも含めてたまらないものがあります。

このアルバムは、レコードだと70年代に出た『Time of the Zombies』っていう2枚組の編集盤では持ってるんですよ。1枚目がシングル、アウトテイク集で2枚目が丸ごと『Odessey and Oracle』っていう。でもやっぱりこのジャケットで持っていたいですよ。これが家にあったらアガるなと思いました。このUS盤にはジャケットに活字でアーティスト/タイトルが入ってますけど、UKオリジナル盤には入ってないんですよね。でも、たしかこのアルバムってAl Kooperが気に入ってプッシュしたおかげでアメリカでリリースされたっていうような経緯があるから、そういうストーリーも込みでUS盤も味があるなと思います。

②Pierre Laniau/Erik Satie: Pièces pour Guitare(1982)フランス盤

Pierre Laniau/Erik Satie: Pièces pour Guitare(1982)
澤部
これは全然知らないレコードですけど、さっき棚に刺さってたジャケットの“背”にピンときて決めました。すごい堂々とした背だったんですよ。背と目が合ったっていうか。さっきちょっと聴かせてもらいましたけど、最高でしたね。サティをギターでやってて、「グノシエンヌ」がより深刻な感じに聴こえてめっちゃ面白かったです。

こんな風に何の予備知識もない状態で買うことは普段から全然あります。“背が呼んでる”系で思い出深かったのは、Serge Chaloffっていうバリトンサックス奏者のCDですね。たまたま呼ばれて買ってみたら、それが僕の大好きなDick Twardzikっていうピアニストが参加してる数少ない作品のひとつだったんですよ。そういう出会いがあるから、背に呼ばれるようにいつも自分をチューニングしておかないとなって思います。

③Chet Baker / Almost Blue(1989)12”/US盤/Promo Only

Chet Baker / Almost Blue(1989)
澤部
今回一番欲しいのはコレですね。自分がデビューして1年経たないくらいの頃に曽我部恵一さんがライヴに呼んでくれたんですけど、その時のDJで曽我部さんがかけてたんですよ。「まったくなんちゅーもんかけてくれるんだ」と思って。そんな思い出があるんですけど、それ以来12インチはあまり見かけないので、純粋に欲しいですね。

Chet Bakerは高校時代に初めて聴いて以来ずっと好きです。入り口は『Chet Baker Sings』で、その後色々聴くようになって、さっきも話に出たDick Twardzikが参加した50年代の作品も大好きだし、世間的には評価の低い60年代末から70年代前半にかけての作品も情けなくて好きなんですよね。特にギャングに歯を折られた直後の『Albert’s House』(1969) っていうアルバムなんて、ほんとにボロボロで、何もかもが安っぽいんですけど、でも安っぽいからこそ泣けるみたいな変なアルバムなんですよ。そういう中にもどうしても美しい部分っていうのがあって・・とにかく好きですね。

④細野晴臣&イエロー・マジック・バンド / はらいそ(1978)JPN original

細野晴臣&イエロー・マジック・バンド / はらいそ(1978)
澤部
大定番を選びましたけど、これには深い理由があって。いや、深くもないんですけど、早い話が親孝行をした、という話なんですよ。僕は母親の影響で音楽を聴いてきた部分がすごく大きくて、子供の頃から母の音楽ライブラリーに染まってたんですね。母もYMOや細野さんが好きだったんですけど、僕が実家を出る時に母のそういうレコードを勝手に持って行って聴いてたんです。

で、その後、細野さんと共演する機会があったのでサインをもらったんですけど、自分本位で『泰安洋行』にお願いしちゃったんですよ。自分自身の思い入れと、サインを入れやすそうなジャケットだっていうこともあって。でもあとで思い返したら母は『はらいそ』派だったんです。「しまった!」と。こんな音楽稼業やってたら親孝行なんてまったくできないのに、唯一の親孝行チャンスで自分が前に出たな。申し訳ない、と。それで、もしまた細野さんにお会いできる機会があったら、今度は『はらいそ』にサインをいただいて実家に奉納しようと思ったんです。その後、実際にそういう機会が訪れて、無事奉納された『はらいそ』は実家の玄関に飾られています。

そういうわけで、今自分の手元には『はらいそ』がないんですよ。だから、もう一度欲しいんですけど、最近はもう前みたいな値段じゃ買えないから、さあどうしようっていう感じです。

⑤Ianci Körössy / Jazz Recital(1978)10”/チェコ盤

Ianci Körössy / Jazz Recital(1978)
澤部
ヤンシー・キョロシーっていうルーマニアのジャズ・ピアニストなんですけど、名前の綴りが“Jancy”だったり“Jansci”だったり“Yancy”だったり、リリースされた国によって違うんですよ。60年代にドイツに亡命して、MPSで『Identification』(1969) っていうアルバムを1枚吹き込んでて、そちらはちょっとアヴァンギャルドな雰囲気もあって最高です。でも、この10インチは聴いたことないので、聴いてみたいな、欲しいなと思って選びました。

ヤンシーとの出会いは、Normaっていう日本のジャズレーベルが出してた復刻10インチのシリーズの中に彼の『Seria Jazz Nr.1』(1965) があって、ジャケ買いをしたのが最初ですね。聴いてみると、なんか得も言われぬいいピアノなんですよ。リリースされた作品もすごい多いわけじゃないから、レコードで見つけたら欲しい、買いたいと思っているミュージシャンの一人なんですけど、たっかい! 東欧のジャズは高い!

Interview: スカート澤部渡とレコード

━━レコードとの出会いを教えてください。

澤部:小学校の時に母親のレコードコレクションからYMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』を聴かせてもらったのが最初ですね。当時、僕はYMOにすごく興味を持ってたんですよ。というのは、小学校に新しく赴任してきた図工の先生がYMOが好きで、図工準備室で細野さんの『omni Sight Seeing』と『MEDICINE COMPILATION』と坂本龍一さんの『Smoochy』を聴かせてくれたんです。それで、そういや昔、母がYMOがどうとか言ってたなって思って。森高千里さんが細野さんと一緒にやってた時期があるじゃないですか。お二人でテレビにも出てて、僕も森高さんはよく知ってるけど、隣のおじさんは誰なんだって。そしたら母が、細野さんっていってYMOっていうバンドをやってた人でね、おじいさんがタイタニック号に乗っててね……みたいな話をそういえばしてたな、と。そういうのが自分の中で繋がって、YMOが聴きたくなったんです。ただ、レコードは家にあったけど、プレイヤーがなかったんですよ。そしたら親父が新しくプレイヤーを買ってきてくれて、それで『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』を聴きました。

当時、母のレコードコレクションは100~200枚ぐらいしか残ってなかったんですけど、僕の幼い頃の記憶だと、その5倍くらいは持ってた印象があるんですよね。母曰く、ほとんど売っちゃって、本当に大事なものだけ残すことにしたらしいです。Charles Mingusの『直立猿人 (Pithecanthropus Erectus)』とThe Stoogesの『Fun House』のジャケットがすごい怖かったのが幼少期のトラウマのひとつですね。今はもう音楽好きになっちゃったから怖くないけど。

━━YMOに興味を持つ前から音楽自体は好きだったんですか?

澤部:もう記憶がある頃にはすでに音楽好きでした。子どもの頃はプリンセス プリンセスとかLINDBERGとかを聴いてましたね。僕、87年生まれなんで、その頃から時代に追いついてないんですよ。さらにその前はチェッカーズと光GENJIなので、もっと時代に合わないっていう。チェッカーズは「ひらけ!ポンキッキ」の「ガチョウの物語」で好きになったんだろうなっていう想像はつくんですけど、光GENJIはなんででしょうね? 90年代も「ミュージックステーション」には毎週出てた気がするから、その辺がきっかけかもしれないですけど、まったく思い出せません。

━━その後、小学生で『MEDICINE COMPILATION』みたいなアンビエントっぽいものをいきなり聴いて、ピンときたんですか?

澤部:いや、怖かったですね。だって「AIWOIWAIAOU」の歌詞とかめちゃくちゃじゃないですか。蜂に刺されて死ぬって言ってるし。『Smoochy』も退廃的な歌詞だったんで、ビビりましたよ。カルチャーショックでした。でも、小学校5~6年の頃、よくわかんないながらも『泰安洋行』を聴きながら学校に行ったりしてたんですけど、今聴いてもその時のことが鮮明に思い出されるんですよ。朝、学校に向かってる道の感じとか、学校に入ってから図工室に上がる階段の感じとか。やっぱ細野さんの音楽って、“毒”の音楽だったんだなって。当時はそう思って聴いてなかったけど、後々思い返してみれば、あれは完全に毒だったんだってわかりました。

━━毒薬変じて薬となるとも言えますね。YMOも最初はよくわからなかった?

澤部:いや、YMOにはめちゃくちゃハマりました。中学に上がるくらいまでは相当聴いてましたね。ただ、母は82~83年頃までレコードを買ってたんですけど、なぜかYMOは『増殖』(1980) で止まってたんですよ。なんで『BGM』(1981) と『テクノデリック』(1981) には行かなかったんだろうって今でも不思議なんですけど、たぶんその頃の母はもっとロックっぽいものに興味が移ったんじゃないかなと自分なりに想像してます。

━━それにしても、お母さんはかなり音楽がお好きな方なんですね。

澤部:そうですね。恥ずかしながら母親からの影響はめちゃくちゃデカいです。これはよく話すエピソードなんですけど、僕、中学生の頃にNUMBER GIRLが好きで、部屋で聴いてたら、ガラガラってドアが開いて、「コレ聴くんだったらコレも聴きな」って、母にXTCの『Drums and Wires』を渡されたんですよ。それがほんと衝撃的で。しかも『Black Sea』じゃなくて『Drums and Wires』ってところがセンスいいっすよね。そんな母だったから、影響は受けますよ。

━━お母さんのライブラリーでは他にどんなアーティストにハマりましたか?

澤部:子どもの頃にRCサクセションとかSpecials、Devoとかに触れて、高校の頃にはDavid BowieとかIggy Popもすごい聴きましたね。

あと、yes, mama ok?っていう僕の大好きなバンドが、Chet BakerとかBlossom Dearie、Sergio Mendes、高橋幸宏さんの「SARAVAH!」とかをカヴァーしてて、僕はそれをきっかけにそういうアーティストを知ったんですけど、後で家のライブラリーを見てみたら、母もそういうのをみんな持ってたんですよ。「うわ、なんだこの繋がっていく感じは……」と思って、あの時ばかりは本当に怖くなりましたね。

そんな母は、最近ようやく人生が落ち着いてきて、Spotifyでまた色々聴いてるみたいです。今、僕が京都でラジオをやってて、色んな音楽をかけるんですけど(α-STATION「NICE POP RADIO」)、毎週それ聴いてLINEで感想を送ってきますよ(笑)。「私もEric Dolphy昔聴いてた!」とかって(笑)。

━━そういうお母さんは私の世界線に存在しないので羨ましいです。スカートの音楽が極めてポップでありながら屈折を多分に孕んでいるのは、そうしたロックやニューウェイヴの下地があってこそだなと思いました。

澤部:そう思いますね。屈折してますよ。でも、屈折してるからこそ、屈折したまんまの音楽は絶対にやりたくないと思って、それで僕はポップミュージックを選んだんだと思います。色々紆余曲折はありましたけど。

僕の好きなポップミュージシャンも大体屈折してますしね。大人の耳で聴くと、光GENJIだって屈折しまくってますよ。「STAR LIGHT」の転調の感じとか絶妙だし。ASKAさんは東洋のPaddy McAloon (Prefab Sprout) なんだなっていうのが自分の中ではすごいあります。10年くらい前にチャゲアスがようやくわかったんですよ。チャゲアスって、その時代を射抜くためのサウンドだから、音像に時代がどうしても滲んでしまう。正直最初はそこに馴染めなかったんですよね。でも結局メロディやコード進行が良すぎるということがわかった。そこからプリファブも聴くようになって。若かった頃の自分だったら『Jordan: The Come Back』(1990) の音とか聴けなかっただろうなって思うけど。だから、自分の苦手だった音色や音像が、楽曲そのものの力でクリアできるようになっていったっていう意味では、チャゲアスにはほんと感謝してるんです。

━━レコードを聴き始めた当時、レコードそのものに対する魅力も感じていましたか?

澤部:やっぱりデカいっていうことに一番の魅力を感じてましたね。あとは、もう少し後の話になりますけど、小遣いでどうやって音楽を聴くかってなると、安ければ安いほどいいじゃないですか。で、2000年代ってレコードが安かったんですよね。だからその頃にいっぱい買いました。100円、300円、500円、1,000円とか、今じゃ買えないような値段で色々と手に入ったので。

━━世代的にはCDやデジタル配信も同時に存在する中でレコードに触れてきていると思いますが、それらと比較した際のレコードの魅力はありますか?

澤部:一番大きいのはA面/B面があるっていうことですね。それは何にも替えがたい。やっぱり人の集中力は60分はもたないですよ。20数分で一旦ブレイクして、そこでひっくり返す。なんなら片面聴いただけで終わっちゃってもいいし。そういう時間があるっていうのが自分には大事だし、リスニング体験として、それがあるのとないのとじゃ大違いですよね。

━━ではスカートのアルバム制作においても、実際にレコードを出す出さないを問わず、A/B面の切り替えは意識して作ってる感じですか?

澤部:もうファーストの時からそうですね。当時から、ここでA面終わり、この曲がB面1曲目っていう曲順の組み方を明確に意識してます。

━━現在レコードショップに通う頻度は?

澤部:そんなに高頻度では行ってないですよ。やっぱ東京だとお金を使い過ぎちゃうから、なるべく寄り付かないようにもしてて。だから行く店をものすっごい絞ってるんです。生活圏が吉祥寺に近いので、吉祥寺のココナッツディスクと都内ディスクユニオンの新入荷だけは見てもよしっていう風になるべく厳しく律してます(笑)。そうじゃないとお金がいくらあっても足りないですから。地方に行った時はもうちょっと見るようにしてますけどね。もっと稼げたらラクなんでしょうけど、この音楽性じゃね(笑)。

━━いま所有しているレコードの枚数は?

澤部:どれぐらいなんだろう? IKEAの棚にレコード入れてて、それが8マス×2。元から使ってる棚が3マスと2マス。食器棚として使ってた6マスの棚もいっぱいだし、押入れの片方全部にも詰め込んでるけど、それでもまだ入りきってないですね。……となるとどれくらい? 2000枚とか? 7インチも入れれば2~3000いくかもしれませんけど、でもコレクターからしたら2000枚なんて大した数じゃないでしょう。

━━レコードコレクションはどのように管理してるんですか?

澤部:近年盤だけで分けてあるのが2マスあって、あとはYMOファミリーで一括り、日本人女性で一括り。ここは難しいラインなんですけど、浅川マキさんとかチャクラ、大貫妙子さん、早瀬優香子さんとかが入ってます。日本人男性のコマもあります。洋楽はXTC、Sparks、Princeとかでひとまとめにしてますね。あとはBlossom Dearie周辺、80sロック、それ以降のロック、ジャズ、クラシックみたいな感じです。ソウルはそんなに持ってないからロックの中に混ぜちゃってます。で、一番下の段は探しづらいから100円レコードゾーンですね。几帳面じゃないので、ABC順とかにはまったくなってなくて、新たに買ったものは適当に真ん中あたりにスッと入れちゃってます。

━━かなり個性的な分け方ですね。この質問、毎度その方のキャラクターが表れるので結構面白いんですよ。

澤部:皆さんどんな感じなんですか?

━━このインタビューは澤部さんで8人目ですが、少なくともABC順にきちんと並べてるのは岡田拓郎さん1人でした。

澤部:あー岡田君、キャラに合ってる気がする。でも僕もCDはABC順に並べ直しましたよ。ソフトケースに入れ替えたので、背で探せなくなっちゃったから。やっぱりそういうきっかけがないと難しいっすよね。

>>> WHAT'S IN YOUR CART? 岡田拓郎編をチェック

━━オリジナル盤へのこだわりはありますか?

澤部:あんまりないんですよ。とにかく聴ければいい、安けりゃ最高っていうところが出発点なので。ただ、オリジナルではないですけど、Princeの『Lovesexy』は日本盤の帯付を探してます。『Lovesexy』に半透明の帯が付いてる“あの感じ”が何とも言えずいいんですよね。あと、吉田美奈子さんの『FLAPPER』とか、山下達郎さんの『SPACY』もいつか初回の半透明帯付が欲しいと思ってます。他にも、Blossom DearieのオリジナルのMonoとStereoでマスターが微妙に違うやつを揃えたりとか、そういう偏愛的なものも一部ありますけど、基本的には帯がなくても気にせず買うし、再発を手に入れたらそれで満足しちゃうタイプですね。わざわざオリジナルを買い直したりはしないです。

━━いま特に探していたり、ハマッているジャンルはありますか?

澤部:最近サヴァンナ・バンド(Dr. Buzzard's Original Savannah Band)にハマッてるんですよ。意外にも今まで聴いたことなかったんですけど、とにかくワクワクしています。なのでAugust Darnell周りは結構探してますね。

━━今のレコード・ウォントリストのトップは?

澤部:トップって言われると難しいなあ……。

まずAlex Chiltonの『Loose Shoes and Tight Pussy』(1999) はいつか欲しい。

あと、細野さんの弾き語りが入ってる『1974 HOBO'S CONCERTS V(ありがとう ありがとう ありがとう)』(1976)。

それと、CDで復刻されたSaravah!のジャズ・コンピ、『Saravah Jazz』に数曲収録されてて衝撃を受けたSteve Lacyの『Lapis』(1971) も欲しいですね……。

The RAH Bandの「Questions (What You Gonna Do)」(1983) っていう12インチもずっと探してますね。ちょっと前に『The RAH Band Story Vol.1』『Vol.2』っていうCDボックスが出たんですけど、それにも入ってなくて。

あとはなんだ……色々あるんで、ちょっと携帯見ていいですか?
(携帯のウォントリストを眺めながら)

絶対買えないとわかってるものでは、Nirvana (UK) の『Dedicated To Markos III』(1969) っていうサード・アルバムのジャケ違いの日本盤。『ニュー・フォーク・サウンド』っていう邦題で出てたんですよ。これが当時日本で出てたっていうことに浪漫を感じますよね。

これも絶対買えないけど、The Groopっていうソフトロック・グループのアルバム『The Groop』(1969)。この10年くらいで初めて聴いたんですけど、めちゃくちゃいいんですよ。ずっと欲しいと思ってますけど、値段の相場を見ると難しいかなあ。

あと、「はれときどきぶた」っていう児童文学のアニメ映画が80年代に作られてて、それのオープニングの「こころ宇宙」っていう曲がめちゃくちゃカッコいいんですよ。柳田ヒロさんがやってて。その7インチはずっと探してるんですけど、まったく見つからないですね。

あとね、松永良平さんに昔もらったミックスCD-Rに入ってたAl Hirtっていうトランぺッターの「My Name Is Jack」のカヴァーがあって。それが入ってる『In Love With You』(1968) ってアルバムもいつか欲しいと思って探してます。

とりあえずこんなところですかね。結構ありますね。業の塊ですね。

━━でも吉祥寺のココナッツさんと都内ユニオンさんしかチェックしちゃいけないとなると、なかなか出会うのが難しそうですね(笑)。

澤部:まあ、でも基本的に音楽だったらなんでも楽しいんで。ウォントのやつは死ぬまでに出会えりゃいいかなぐらいの感じですよ。日本じゃどうにもならなそうなのはDiscogsで買ったりもしますしね。NRBQの「In Person!」(1982) っていう7インチはどうしても欲しかったんで、Discogsで買いました。これも松永良平さんがラジオにゲストで来てくれた時に教えてくれたんですけど、もうロックのすべてが詰まってるっていうくらい最高で。……あ、Discogsのウォントリストも見ればいいのか! え、もしかして、もういい?

━━いえいえ、いくらでもどうぞ(笑)。

澤部:じゃあ最後にネタになりそうなのをひとつだけ。20年近くずっとずっと探し続けて、こないだやっと手に入れた1枚があるんですよ。クラシックなんですけど、ガブリエル・フォーレを好きになったきっかけの「ピアノ五重奏曲第2番」のとあるレコードを大学時代にお店で聴かせてもらったんですけど、お金がなくて買えなくて、でもやっぱり買おうと思ってお店に戻った時にはもう売れちゃってたっていう。品番とか演奏者もわからなくて。それからその情報を探し出すのに10年近く、物が見つかるまでさらに10年近くかかりました。Concert Hall Societyから出てたRay Lev(レイ・レフ)とPascal String Quartet(パスカル弦楽四重奏団)の50年代初期の録音なんですけど。

━━それはかなり感動の再会ですね。どうやって誰の演奏か特定したんですか?

澤部:ジャケットがかなり特徴的だったので、定期的に「フォーレ ピアノ五重奏」とかでGoogle検索かけましたね。ある時、下北沢のノアルイズ・レコード(現FUN FUN FUN RECORD)の新入荷が検索でひっかかって、このジャケットだ!って。でも、それももう売り切れちゃってたんです。ただ、おかげでレコードの情報だけは手に入ったので、それを元に探すようになりました。そこから10年近くかかりましたけど、結局、国内で2,000円ちょっとで見つかりました。それは嬉しかったですねえ。

━━澤部さんにとって“良いレコードショップ”とは?

澤部:私の答えはひとつです。“窓があるレコード屋”です。窓がないレコード屋って結構閉鎖的な空間じゃないですか。単純に僕、あれがキツいんですよ。あまりの情報量にヤラれちゃうことが時々あって、レコード見てても目が滑っちゃうんですよ。だから窓があるレコード屋がいいですね。

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スカート

どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンドアンサンブルで職業・性別・年齢を問わず評判を集める不健康ポップバンド。2006年、澤部渡のソロプロジェクトとして多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始。2010年、自身のレーベル、カチュカ・サウンズを立ち上げ、1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースした事により活動を本格化。これまでカチュカ・サウンズから4枚のアルバムを発表し、2016年にカクバリズムからリリースしたアルバム『CALL』が全国各地で大絶賛を浴びた。そして、2017年にはポニーキャニオンからメジャー1stアルバム『20/20』を発表。2020年にはインディーズ期の楽曲を再録音した『アナザー・ストーリー』を発表し、その楽曲の芯の強さを見せつけた。その他も数々のアニメーション作品、映画、ドラマの劇伴、楽曲制作に携わる。また、そのソングライティングセンスからこれまで藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、Adieu(上白石萌歌)などへの楽曲提供も行っている。更にマルチプレイヤーとして澤部自身も敬愛するスピッツや川本真琴、ムーンライダーズらのライヴやレコーディングに参加するなど、多彩な才能、ジャンルレスに注目が集まる素敵なシンガーソングライターであり、バンドである。