#003 - MUROの“いま欲しい5枚”
WHAT'S IN YOUR CART?

#003 - MUROの“いま欲しい5枚”

レコードを愛するゲストを毎回迎え、ELLA ONLINE STOREのラインアップから“いま欲しい5枚”を選んでもらうインタビュー・シリーズ“WHAT’S IN YOUR CART?”。記念すべき初回は、3人のゲストをお迎えした豪華3本立てでお届けします。

3人目は、日本が世界に誇るKING OF DIGGIN’、MUROさんをお迎え。愛車のバイクでELLA RECORDS VINTAGEに颯爽と登場し、慣れた手つきでレコード棚を隅々までディグしながら選んでくれたのは、歴史的名盤から激レア盤まで、ジャンルを跨いだ珠玉の5枚。MUROさんその人を形づくってきた作品たちに対する愛あふれるレコードトークはもちろん、ヴァイナルディガーの道に踏み出すまでのストーリーも、いつもよりたっぷりと語ってくれました。

Interview & text: Mikiya Tanaka (ELLA RECORDS)
Photo: KenKen Ogura (ELLA RECORDS)

Furniture design & production, Interior coordination: "In a Station"
Special thanks to: Satoshi Atsuta


MUROの“いま欲しい5枚”

①A Tribe Called Quest/The Low End Theory(1991)US/2LPリイシュー

The Low End Theory(1991)
MURO
“いま欲しい5枚”というテーマでしたけど、欲しいものがありすぎて(笑)。なので今回は、特に思い入れの強い作品とか、今の気分で語りたいものを選ばせてもらいました。
ATCQのこのセカンドは、どのラップアルバムよりも多く聴いたんじゃないかなと思います。もうヒップホップの枠を飛び越えて、ジャズに興味を持たせてくれたりとか、アートワークも含め、色んな影響を受けました。
KRUSH POSSE時代にジャズ・ラップの第一次ブームみたいなのがあって、Dream Warriorsっていうカナダのラップグループの来日公演に急遽Gang Starrがジョイントすることになったんですけど、その時KRUSH POSSEに初めて前座の話がきて、やったんです。KRUSHはその頃からジャズをすごく聴くようになってて、レコードの堀りもジャズが中心だったので、そういった意味でもこのアルバムは教科書みたいな存在でしたね。
当時、アメ盤はプロモしかなかったので、UK盤をWAVEで買いました。これは2枚組ですけど、オリジナルは1枚組だから結構(音圧)レベルが低かったのを頑張ってクラブでかけてました。最近は2枚組になったり、ボートラ入れて出し直したりするケースが多いので、そういうのはどんどんやってほしいですね。

②Kool And The Gang/Kool And The Gang(1969)US盤

Kool And The Gang(1969)
MURO
これは僕が生まれたのとほぼ同時期にリリースされたレコードなんですよ。Kool And The Gangは、どのレコードもいいですけど、特にこれはズバ抜けて好きですね。B1“Give It Up”とかA3“Chocolate Buttermilk”とか、いわゆるインストファンクに目覚めたアルバムでした。“Chocolate Buttermilk”は、自分の“Hip Hop Band”って楽曲のサンプリングにも使わせてもらってます。
これのオリジナル盤は、なかなか見ないですよねえ。このジャケットを見ても、きっとみんなベスト盤の方を思い浮かべるんじゃないかと思うんですけど。当時、このアルバムが買えないがために、金色のジャケットの方のベスト盤を買って、“Chocolate Buttermilk”や“Give It Up”は、初めはそれでかけてました。だから、このアルバムを手に入れた時は嬉しかったですねえ。渋谷の三角交番の前にあったビュー・レコード(Soul View)っていうお店で高い値段で買ったのを今も覚えてます。

③Macky Feary Band/Macky Feary Band(1978)USオリジナル

Macky Feary Band(1978)
MURO
ハワイものでは、Kalapanaと一緒に一番初めに買ったレコードですね。神保町で帯付きの日本盤を買ったんですよ。それで、こんな楽曲がハワイにもあるんだっていうのを思い知らされて。なんかジャケットもすごくいいんですよねえ、ホームシティライトみたいな感じで。それからハワイものにハマッたんですけど、当時はハワイのレコードが買えるところってそんなになくて。神保町に専門店が1軒あったので、そこによく行ってました。今は渋谷のCoco-isleさんとか、千駄ヶ谷のPOOL SIDEさんに行きます。
で、その後、まだハワイにスポットが当たっていない頃に“Hawaiian Breaks”っていうMIXを作らせてもらったんですよ。CDでしかリリースされてない作品も多かったから、そういうのも収録したら、すごく反響があって。それがAloha Got Soul(ハワイアン・レアグルーヴを中心としたホノルルのレーベル/DJコレクティヴ)の立ち上げのきっかけにもなってくれたりして、本国の人にも影響を与えられたっていうのがすごく嬉しかったですね。
ハワイアン・レゲエもそうですけど、ハワイのこういう音楽って、優しさというか、柔らかさというか、どのジャンルにもない心地よさがあるんですよね。それでハワイ自体も好きになって、行く回数も増えました。現地で試聴しながら宝探しみたいなこともしてます。7インチ1枚しか出してないような人も随分いるみたいだから、ハワイはまだまだ掘り甲斐があると思いますよ。最近、友達にハワイアン・ディスコみたいなのをコレクションしてる子もいます。

④阿川泰子/L.A. Night(1987)日本盤/12”

L.A. Night(1987)
MURO
あ、これ、クリア盤なんだ!
この曲は自分にとって和モノの買い始めみたいなところがあって、UKのBluebirdっていうレーベルから出てた12インチをFace Recordsで買った気がします。その頃から和フュージョンには注目してて、阿川泰子さんや笠井紀美子さんは、その入り口でしたね。海外の曲と並べてかけられる和モノってなかなかないですけど、これは本当にクオリティが高いので、当時からずっとかけてます。だから、2018年にTokyo Recordsで7インチを切れたのは、念願が叶って嬉しかったですねえ。最近もよくかけるんですけど、若い子に聞かれることがすごく多いんですよ。
ちなみに、去年出たAsha Puthli “Space Talk”のDimitri From Parisリミックスがこの曲にそっくりで、ここからきてるんだろうな~なんて思ってます。

⑤Dub Specialist/Better Dub (1974)ジャマイカオリジナル/シルクスクリーンジャケット

Dub Specialist/Better Dub (1974)
MURO
今回選んだ中で、これは本当に“いま欲しい”1枚です。まだ興奮してます(笑)。一時期レゲエのシルクスクリーンジャケットを集めてたんですけど、このシルクは見たことなかったですねえ。いつも見るやつは、赤いプリントで”BETTER DUB”って書いてあって、この踊ってる人のデザインは入ってないんですよ。
これに収録されてる“Gready G”っていう曲が、昔からレアグルーヴのクラシックになっていて、ヒップホップでもBoogie Down Productionsがサンプリングしてて。当時、レアグルーヴに混ぜてレゲエをかけるきっかけになった曲だし、ジャマイカン・ファンクにもカッコいいものがいっぱいあるんだっていうのを教えてもらった1枚なので、思い入れもあります。

Interview: MUROとレコード

━━レコードとの出会いを教えてください。

MURO:子供の頃、実家がガソリンスタンドだったんですね。それで、庭をチョロチョロして、野球とかしてたんですけど、車が入ってくると危ないからっていうことで、母親がポータブルのレコードプレイヤーを買ってくれて。で、漫画の読み聞かせみたいな、本にソノシートが付いてるものが当時は結構出てたので、それを集め始めたのが最初なんですよ。それから漫画の主題歌を買い始めて。だから、もうその頃からレコードっていうものには慣れ親しんでました。

で、中学になって、ディスコに行きたかったんですけど、まだ入れなかったし、テレビも「ベストヒットUSA」くらいだったんですよね。ただ、僕が住んでた川口の隣町の板橋に「ローラーイン東京」っていうローラースケート場があったんですよ。そこに友達の父ちゃんが通ってて、誘ってもらったのが、すべてのきっかけでしたね。そこはDJブースがあって、結構黒い選曲してたんですよ。平日はエレクトロみたいな選曲の日もあったり。で、風見しんごさんのバックで踊ってた方が、リンクの中央でブレイクダンスの練習してたりしたんですけど。それで、かかってる曲をブースに聞きにいくと、丁寧に紙に書いてくれるんですよ。その紙を、当時流行りだしてた貸しレコード屋さんに持って行って、レコードを借りて、カセットテープに落として、っていう日々が始まりました。

━━DJへの目覚めもその頃ですか?

そうですね。その当時、ディスコでは、そのハコのDJが作ったノンストップMIXのテープを誕生日にもらえたんですよ。自分もそういうものが作りたくてしょうがなくて、当時はとにかくノンストップMIXに憧れてました。で、ちょうど自宅に、ダブルデッキのカセットとレコードプレイヤーが一体になったモジュラーステレオみたいなのがあったんですけど、そのダブルデッキの再生ボタンを両方同時に押したら、音が混ざって鳴ったんですよ。「よし、これでMIXできるぞ」って思って、レコードから自分で落としたカセットを使ってノンストップを作り始めたのが最初です。実はDEV LARGEもそうだったらしくて、「俺も同じことしてたよー! そんな子いたんだー(笑)」みたいな話で盛り上がりました。

で、高校の学園祭でそれを披露したんですけど、誰も反応してくれなくて(笑)。「何やってんだ、オマエ?」みたいな(笑)。その頃はヘヴィメタ全盛期で、そんなことやってる子なんていなくて、でもそれが気持ちよくてしょうがなかった(笑)。人と同じことが嫌なヒネくれた子供だったんです。そんな感じで、ローラースケート場でレコードをチェックして、貸しレコード屋に行って、っていうのが高校の終わりまで続いてましたね。

━━HIP HOPとの出会いはどのように?

MURO:そのローラースケート場では、ディスコとかと一緒にGrandmaster FlashとかAfrika Bambaataaもかかってたので、大好きになっちゃって。86年にRUN DMCがNHKホールに来たときは、SUPER STAR履いて行きました。ただ、やっぱり一緒に行く人が周りにいないんですよ。なので、いつもひとりで行ってましたね。次の年に渋谷LOFTの地下駐車場でやったLL COOL Jもひとりで行ったし。で、次の日は六本木のトゥーリアっていうディスコでやるって言うんですけど、そういう店ってドレスアップしないと入れないんですよ。それでもひとりで行きましたね、LL COOL J観たさに。

そんなときに、ヘヴィメタやってる学校の友だちが「なんかオマエみたいなことやってる子、原宿のホコ天にいたよ」って教えてくれて(笑)。それで行ってみたら、DJ KRUSHとかがいて、「うわーっ!」って衝撃受けて。それから毎週行くようになりました。その頃の僕は、ガタイがよくて目立ってたので、KRUSHの方から声かけてきてくれて、こういうのが好きだったらレコード運びを手伝わないかってことで、「ぜひ運転させてください」と。当時、KRUSHはまだ運転免許を持ってなくて、僕がちょうど免許を取った年だったんですよ。向こうは大泉学園に住んでて、こっちは川口だったから、結構近くて。それで、KRUSHに自分のノンストップMIXを聴いてもらいたいから、毎日のようにテープを作って、迎えに行って、車内でそれを聴いてもらうっていうのが、何よりの楽しみでした。で、KRUSHに「これ、誰の曲?」って聞かれるのが、も~う気持ちよくて(笑)。逆にKRUSHからはフュージョンとかを教わって。当時、銀座のハンターとか、江古田のココナッツ、あとは一番近い街だった池袋のWAVEとかPARCOに入ってるレコード屋さんとかに一緒に行くのが、もう楽しみで仕方なかったですねえ。特にハンターでフュージョンを買うのが楽しかったなあ。2,000円持っていけば、20枚しっかり買えたので。89年とか90年頃の話です。

━━現在レコードショップに通う頻度は?

MURO:いまだに毎日行っちゃいますね。特に雨の日は、お店が空いてて試聴もゆっくりできるので、狙って行きます。バイクに屋根もついてますし(笑)。新宿、渋谷はバイクでパッと行けちゃうし、西は吉祥寺、東は神保町くらいまでバイクです。あと、地方に行くときも必ず現地のお店に行くので、いまだにレコードマップは持参してます。

6年前からラジオをやっていて(TOKYO FM「MURO presents KING OF DIGGIN'」)、毎回選曲テーマがあるので、それに沿って探しに行くことが多いですね。あとはやっぱりサンプリングソースを探すことも多いので、雨の日にじっくり試聴しながらレコードと向き合って、まだ誰も知らない1小節、2小節を見つけるっていうのは、いまだに好きです。

━━いま所有しているレコードの枚数は?

MURO:いや~、数えたことはないですけど、でも昔と比べたら全然減っちゃってますね。2014年に渋谷にHMV record shopがオープンする時に、当時住んでた幡ヶ谷の家のレコードを2部屋分まとめて処分したんですよ。ちょうど子どもが産まれたタイミングだったのと、引っ越しも手伝ってくれるっていうので。でも、結局そこからまた1部屋分くらいの量は増えちゃってるかな。また買ってきちゃうんじゃ意味ないよな~なんて思いながらも(笑)。ラジオの選曲用に買い直したりすると、レコードに自分のマーキングが入ってて「おかえりー」みたいな(笑)。そんなの普通にありますよ。お前は何をやってるんだって(笑)。

━━膨大なレコードコレクションはどのように管理してるんですか?

MURO:基本的にジャンルで分けてますけど、現場が週に2、3回重なったりすると混ざっちゃいますね。分けたはずのものが、また足元にきてたり。一応、仕切り板の用意だけはしてあるんですけど、アルファベット順とかにはなってないです。逆に曽我部(恵一)さんとかどうしてるんですかね? 曽我部さんのところもお子さんがいて、ワンちゃんもいるし、結構ウチと環境が似てるので気になります。

>>>  WHAT’S IN YOUR CART? 曽我部恵一編をチェック

━━オリジナル盤へのこだわりはありますか?

MURO:今でもやっぱりありますねえ。これだけリイシューが進んでても、オリジナルには憧れます。特に、思い入れの強い作品に関しては、オリジナルを“持っていたい”じゃなくて、“持ってなきゃいけない”みたいな。自分の中で「これはオリジナルじゃなきゃ恥ずかしくてかけられないよ」っていうものはありますね。

━━再発盤を買うことも多い?

MURO:さっきのATCQみたいに2枚組になったり、リマスターで音が良くなって再発されるケースも結構あるので、それはそれで買っちゃいますね。新たにインストとかボーナストラックが追加されるものもあるし。こないだのMichael Jacksonの周年盤も買いました。だから、好きなレコードに関しては、オリジナルも再発も両方買っちゃうっていうのが結論ですかね。

最近の再発系だと、Cerroneの2枚組インスト集(“The Classics/Best of Instrumentals”, 2021)は興奮しました。ヌード・ジャケットなんですけど、まさに「憧れのあの曲の裸見ちゃった」みたいな感動がありましたね(笑)。それがジャケットにも表れてるんだな、と。

━━いま特に探していたり、ハマッているジャンルはありますか?

 MURO:さっき棚ですごいラテンの在庫を見せてもらいましたけど、ああいうラテンは、まだまだ掘り甲斐がありそうですよね。リイシューもそんなに出てないし、まだそこまで注目されてないジャンルでもあるので。ディスクユニオンも新宿のワールド(ラテン・ブラジル館)に行くことが結構多いんです。

あと去年、瀧見憲司さんとタイにご一緒させてもらったんですよ。その時にMaft Sai君の自宅に行って、彼の亜モノ・コレクションを堪能させてもらったんですけど、まだまだアジアも広いな~という感じでしたね。今、いい亜モノはトルコに集まってるから、欲しければトルコに行くといいって言われました。

━━レコード・ウォントリストのトップを教えてください。

MURO:やっぱり今回選んだようなレゲエのシルクスクリーン系ですかね。シルクのベストコンディションのものは欲しいですねえ。最近は、こういうもののノイズがノイズに聴こえなくなってきちゃって困ってます(笑)。もう今日は、この“Better Dub”が出てきちゃったんで、これが憧れのレコードになっちゃったなあ。だってこれ、Dub Storeでも見たことないですよ。どこかに飾ってあるのも見たことないし。何としてもシモキタに住んでるうちにこれをゲットするという目標ができました(笑)。

━━サブスクリプション・サービスの登場以降、レコードの買い方や聴き方は変わりましたか?

MURO:変わらないですね。僕はジャケットを見ないことには何も浮かんでこないんですよ。文字で探すっていうことができなくて。だから、未知のものとの出会いも、やっぱりレコ屋に行かないと色々湧いてこないです。恥ずかしい話なんですけど、まるで夢遊病のように、気がつくとどこかのレコ屋にいるって感じで(笑)。

━━MUROさんにとって“良いレコードショップ”とは?

MURO:入ったらなかなか出てこられないお店じゃないですか(笑)。チープコーナーがちゃんと回転してて、NEW ARRIVALが常にNEW ARRIVALなお店には通っちゃいますね。

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MURO

日本が世界に誇るKing Of Diggin'ことMURO。「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャーまで、そしてワールドワイドに広げていく。現在もレーベルオフィシャルMIXを数多くリリースし、国内外において絶大な支持を得ている。DJ NORIとの7インチオンリーでのDJユニット“CAPTAIN VINYL”含めて、多岐に渡るフィールドで最もその動向が注目されているアーティストである。
毎週水曜日21:00〜 TOKYO FM「MURO presents KING OF DIGGIN’」の中で、毎週新たなMIXを披露している。
番組HPは下記リンクより↓