レコードを愛するゲストを毎回迎え、ELLA ONLINE STOREのラインアップから“いま欲しい5枚”を選んでもらうインタビュー・シリーズ“WHAT’S IN YOUR CART?”。
今回は、記念すべきデビュー15周年イヤーに突入し、現在は全国47都道府県を回るロングツアーの真っ只中。2025年1月22日には10枚目のオリジナル・アルバム『4EVER』のリリースを控えるという、まさにメモリアルイヤーをばく進中のOKAMOTO’Sから、ドラマーのオカモトレイジさんにお越しいただきました。
DJとしても様々なイベントに引っ張りだこのレイジさんがELLA RECORDS VINTAGEの棚から選んでくれたのは、「中高生の時にめちゃめちゃ影響を受けた」3枚と「興味なかったけど今なら好きになれるかもしれない」2枚。普段、レコードショップでは聴いたことのないものを直感で選ぶことが多いというレイジさんですが、「さすがにそれだと作品について何も喋れないから記事にならないと思って(笑)」ということで、上記の切り口でセレクトしてくれました。「洋楽初心者みたいなラインナップになっちゃった」と笑いながらも、話を聞けば聞くほどそのディープな音楽知識が露わになる、目からウロコのインタビューとなりました。オカモトレイジさんの愛すべき音楽オタクぶりにシビれてください。
Interview & text: Mikiya Tanaka (ELLA RECORDS)
Photo: KenKen Ogura (ELLA RECORDS)
Furniture design & production, Interior coordination: "In a Station"
Special thanks to: Satoshi Atsuta
オカモトレイジ(OKAMOTO’S)の“いま欲しい5枚”
①Red Hot Chili Peppers / Californication(1999)EU盤
まずは思い入れのある3枚から。レッチリは高校生の時に出た『Stadium Arcadium』(2006)がリアルタイムなんですけど、特に好きなのは『Californication』と『By the Way』(2002)ですね。カヴァーもしてるし、モロにいちばん影響を受けたバンドです。ドラマーとしても、Chad Smithって本当に凄いことやってるなって、プロミュージシャンとしてデビューして尚更思うんですよ。改めて聴くと普通のエイトビートしか叩いてなかったりとか、中学生でも出来るようなフレーズしか基本やってなくて、「頑張れば俺にも出来るかもしれない」っていうものの究極系というか。めちゃめちゃ上手いのにテクニカルなことをやらない、そのギャップにやられますね。あと、多分Chadは、ありえないくらい生音がデカくて、その打撃の強さでマイクコンプがかかっちゃってるみたいな音がすっごい独特なんですよ。あれはこの人にしか叩けないと思います。
ちなみに、こないだの東京ドーム2daysの2日目に行ったんですけど、機材がすんげえトラブってて。席が前の方だったから分かったんですけど、もうJohn Fruscianteが1曲目を弾き始めた途端に袖見て文句言ってるんですよ。で、本編中ずっとそれを繰り返しながら激ギレしてて。なんかそれがすごい希望になりました(笑)。世界制覇したモンスターバンドだからって何不自由なくライヴが出来るわけじゃなくて、そこは普通のバンドマンと一緒なんだって。Johnもやっぱムカつくんだなって(笑)。Johnがトラブってる時にChadとFleaがパッとセッション始めてサポートする感じも超良かったです。
②The Chemical Brothers / Dig Your Own Hole(1997)US盤
ケミカルのこのアルバムは中学生の頃ずっと聴いてましたね。ここから受けたドラムの影響はかなりデカいです。ブレイクから始まるD1「Lost In The K-Hole」とか、こういうフレーズばっかり練習してたんで、最初の頃に作った曲は、変なドラムパターンの曲が多くなっちゃって。当時、Keith Moon (The Who) かケミカルかっていうくらいの影響を受けました。最近は、こういう90’sのカルチャーを作ってきた人達を改めてちゃんと聴こうっていう気持ちになってるんですよ。
90'sといえば、最近YouTubeの「永野CHANNEL」にめっちゃハマッてて。あの人ほど本気でロックが好きな人って、あんまいないと思います。動画観てるとすげえ漲ってくるんですよ。だから最近は、駅から家まで動画の音を聴きながら歩いて、家に着いたらギターを弾くっていうのにハマッてます。永野さん、この企画に呼んだら面白そうっすよね。
③Can / Ege Bamyasi(1972)UK original
Canも高校の頃に聴きまくってました。だからJaki Liebezeitのドラムからもかなり影響は受けてますね。ちなみにNeu!のハンマービートも超好きなんで、Klaus Dingerの影響もめっちゃ受けてます。俺、性格的にありえないくらい捻くれちゃってたんで、高校生でみんながアジカンとかくるりを聴いてる時に、Amon DüülとかManuel Göttschingを聴いてたんですよ。今思うとダメだなって(笑)。
Canって、難しいことをやってるのに難しく聴こえないところが魅力だと思うんですよ。なんかすごいポップじゃないですか。ダモ鈴木のアイコニックなヴォーカルもあると思うんですけど、なんかこんなに難解で取っつきにくそうな音楽なのに聴きやすいっていうのが不思議で。あと、Canはアートワークもめっちゃ可愛いですよね。缶詰型のCDボックスを出た当時に買って、今も部屋に飾ってありますけど、遊びに来た人はみんな反応します。
④Deep Purple / Machine Head(1972)日本盤
「興味なかったけど今なら好きになれるかもしれない」の1枚はコレですね。この前、夜に布団に入って寝ようっていう時に、なんか今の俺だったらハードロックとかメタルも好きになれるかもしれないって急に思って、サブスクでそういうプレイリストを色々聴いてみたんですよ。そしたら朝5時まで寝られなくなって(笑)。で、聴きまくった結果、Deep PurpleとかKISSあたりはギリギリいけそうだな、DJで突然かけたら盛り上がりそうだな、っていうくらいの感触は得られたんですけど、逆にメタリカはまったくわかんなかったです。なんか音が遠い感じがしたっていうか、録り音が好きじゃないのかもしれないですけど。俺、ハードロックでもMotörheadの『Ace of Spades』はめっちゃ好きなんですよ。だから、なんであれはカッコいいって思うのに、他はそうならないんだろうっていうのが自分の中で不思議で。
なので、まったくわかってないけど、Deep Purpleの『Machine Head』を選んでみました。ジャケットでカッコよさそうみたいな。・・あ、「Smoke on the Water」と「Highway Star」が入ってんだ。じゃあ最強ってことっすね(笑)。
⑤Sonic Youth / Goo(1990)US original
これも「興味がなかった」方の1枚。意外に思われるかもしれないですけど、実はSonic Youthもまったく通ってないんですよ。俺、かなり偏ってるんで、有名どころでも通ってないものが結構あって。聴いておくべきところを聴かないまま、スカムミュージックみたいなよくわかんないノイズとかアヴァンギャルドに行った結果、Sonic Youthはスルーしちゃったっていう感じです。
で、これをライヴでやったらどうなるんだろうと思って、Kim Gordonのためにフジロックまで行ったんですよ。わざわざ仕事先の岡山から向かって、翌朝の始発で帰るっていう強行スケジュールで。Kimの年齢的にも、これを逃したら二度と観られないかもしれないじゃないですか。そしたらそのライヴが、ロックとヒップホップの両方にすっごいリスペクトを感じさせる演奏してて、最高だったんですよ。たとえば「BYE BYE」って曲のとき、ベースの人が最初はシンベ(シンセベース)を弾いてて、ドラムの人は生ドラムだったんですけど、サビで思いっきりやりたいだろうなっていうところでも堪えてずっとハイハットを閉じたままいくんですね。で、最後の最後にシンベの人が生ベースに持ち替えてから、ライドシンバルを叩き出すんですよ。俺、そこにめっちゃ感動しちゃって。“シンベとクローズドハイハットでやるのがヒップホップ”、“生ベースとライドでいくのがロック”っていうのを1曲の中でちゃんと使い分けてて、そこのスイッチングにすごいリスペクトを感じたっていうか。俺もヒップホップでライドにいくのは好きじゃないんですよ。っていうのは、ドラムの金物が揺れてるエナジーっていうのはロックのものだと思うから。ヒップホップってやっぱりゲットーカルチャーから生まれたマシーンミュージックだから、そこで金物が開いてほしくないっていう気持ちが俺は強いんですよね。だから、彼らの演奏を観て、そこの感覚が同じなのマジでアツいなって。今まで誰にもこの気持ちを共有できてなかったから、今日話せて嬉しいです(笑)。
そんなわけでSonic Youthも今ならいける気がします。どのアルバムが一番かも知らないんですけど、ジャケットが有名なこれを。前にニューヨークのニュー・ミュージアムにRaymond Pettibonの個展を観に行った時にこのジャケットもあって、これもペティボンなんだって結構ビビりました。
Interview: オカモトレイジ(OKAMOTO’S)とレコード
━━今回の選盤で「興味なかったけど今なら好きになれるかもしれないレコード」という着眼点は面白いですね。高校生でクラウトロックを聴くようなディープさがある一方、有名どころでも通ってないものが結構あるとのことで、音楽遍歴が気になります。まずはその辺りについてもう少し詳しく伺ってもいいですか?
レイジ:通ってない有名どころで言うと、Bob DylanとかPatti Smithもそうだし、The Stone Roses、Oasis、Radiohead、My Bloody Valentine、Beckあたりも通ってないんですよ。聴くタイミングを逃したっていうか。The Smithsも「This Charming Man」くらいしかわかんないです。なのにPrefab Sproutはめっちゃ好きみたいな(笑)。そういう変な偏り方してるんですよね。ちなみにプリファブの「If You Don’t Love Me」は、一生聴きたい5曲を選べって言われたら必ず入るくらいマジで好きです。7inchだけに入ってるストリングスバージョンも最高で、明け方のDJでかけたりしてます。
━━プリファブは私もめちゃめちゃ好きなので嬉しいです。そういう偏った聴き方になったのはどうしてだと思いますか?
レイジ:俺の性格がそもそも捻くれてるのと、あとはもう出会っちゃった仲間たちの影響ですね。クラウトロックに関しては、Bo NingenのTaigen (Kawabe)君と出会ったことがきっかけです。俺は高校でロック研究部みたいな部活とブラスバンド部に入ってたんですけど、Taigen君が学校の5、6コ上の代の先輩で、ブラスバンド部の合宿にOBとして来たんですよ。Taigen君って昔からあのまんまだったんで「うわっ、この人話合いそう」と思って、めちゃくちゃ仲良くなって。そしたらTaigen君が山崎マゾ(MASONNA)とかハナタラシみたいな極端なものをいきなり俺に教えてきたんですよ(笑)。その流れでクラウトロックとかノイズ、アヴァンギャルドにも行ったんだと思います。
━━それは極端すぎる(笑)。それ以前はどんな音楽を聴いてたんですか?
レイジ:中2くらいまでは、みんなが順当に通るような洋楽が好きだったんですよ。Green Dayの『American Idiot』(2004)とか、Linkin Parkの『Meteora』(2003)とか、Good CharlotteとかSum 41とか。で、中3くらいでレッチリの唇ジャケのベスト盤 (“Greatest Hits” 2003)を買ったら完全にハマって。それでレッチリが表紙の「CROSSBEAT」とか雑誌のバックナンバーを友達と買い漁ったり、西新宿のAIRSに行ったりするようになって。そこから俺はThe Stoogesに辿り着いて、ハマ君はFunkadelicに行って・・みたいな感じでOKAMOTO’Sのサウンド感になってるんです。その後、俺はTaigen君との出会いもあったりで、どんどん変な音楽に行っちゃいました。
━━ヒップホップも昔から好きだったんですか?
レイジ:中1からKANDYTOWNのメンバーがみんな同級生だったんで、ヒップホップもロックとは別軸で聴いてました。俺、ロックに関しては、父親がミュージシャンでレコードも大量に持ってたから、暮らしてると自然に耳に入ってくる音楽って感じで、聴いて雷に打たれるような衝撃を受けたことは正直一度もなかったんですけど、「さんピンCAMP」のビデオでBUDDHA BRANDを観た時に「これか!」って思って。今まで生きてきてまったく聴いたことのなかった音楽だったので、そこからヒップホップにものめり込んでいきました。D.L.さん (DEV LARGE)のインスト集 (Illmatic Buddha MC's『INST ALBUM 病める無限のブッダの世界』)がさっき棚にありましたけど、あの辺はリアルタイムで全部買ってたから、家にあります。
━━中高生にしては相当ハイブリッドな音楽趣味ですけど、学校で孤立したりはしなかったですか? 私は完全に孤立してました(笑)。
レイジ:全然しなかったですね。うちの学校(和光中学校・高等学校)ってかなり自由な校風だったんで、音楽オタクから普通の音楽聴いてる子まで、みんなで好き勝手にCDを貸し合ったりして音楽をシェアしてたんですよ。各々のCDライブラリーをクラスみんなで共有してるくらいの感じで、ある意味“校内サブスク”みたいな。それで、まったく音楽聴いてないような子がBUDDHA BRAND聴いたりとか、 クラスの大人しめの女の子が村八分聴いてたりとか、そういう状況が起こってて(笑)。そういうところにKANDYTOWNもいればOKAMOTO’Sもいるわけなんで、文化祭で音楽イベントやったりとか、放課後にライヴハウス借りてイベント打ったりとか、音楽的にはそういう面白いうねりがありましたね。
あとうちの学校、ラッパー人口も超多かったんですよ。もう、休み時間になったらすぐサイファーって感じで、クラスの誰でもラップやってましたからね。「高校生RAP選手権」が始まる10年くらい前にうちの学年ではもう始まっちゃってた。だから、他校からもラップしにくるヤツがいたりで面白かったです。
━━時代の先取り感もありつつ、めちゃめちゃ楽しそうな環境でしたね。羨ましいです。
レイジ:そうですね。だから、今まで話してきたような要素がすべて詰まってるのがズットズレテルズのファースト『第一集』(2009)なんですよ。OKAMOTO’Sは中3からやってるんですけど、高3になったときに初代のベースとギターが、大学受験を見越して勉強するから、半年くらいライヴ活動をお休みしたいってことになって。でも、高校時代の半年なんて永遠と同じじゃないですか。超なげえ、どうしようと思って、それでその半年の間に俺がどんとの息子のラキタとハマ君を誘って、ラッパーを入れて組んだのがズットズレテルズなんです。よく“OKAMOTO’Sの原型”とかって言われがちなんですけど、実際は全然違うんですよね。で、ズレテルズの本当の活動期間は3ヶ月くらいしかなかったんですけど、そういう時間の中でヒップホップとかクラウトロックとかアフリカン・ガレージみたいなのとか、もう自分たちがやりたいことを全部やって。本当にめちゃくちゃやってたけど、大人もそれ見て面白がって、一応アルバム作っておこうってことで1枚だけ作ったんですよ。そういうものなんで、やっぱ純度は高いですよね。ああいうアルバムを自分で作ると、なんか不思議な気持ちになります。高校生の悪ノリだったものを、いまだに若い子が知ってくれてたりするんで。
ああいう連中がもっと出てくるといいんですけどね。最近も面白くて勢いのある若い子はいっぱいいるけど、内容が変なヤツってあんまりいないかな。でも、札幌のthe hatchっていうバンドは、音楽レベルもすごい高いし、ふざけレベルもすごくて、ちょっと近い感じがします。特にパーカッションが入って5人編成になった今のthe hatchは、なんかもう“ヘヴィ・エキゾチカ”って感じの新しいジャンルになっちゃってて、相当ヤバいっすよ。
━━では、ここからはよりレコードにフォーカスした質問に移ります。まずはレコードとの出会いを教えてください。
レイジ:家に父親のレコードがめっちゃあったので、レコードそのものにはちっちゃい頃から触れてますけど、自発的に初めて買ったのは、中3の時ですね。それまでも中古CD屋に行ってCDを探したりするのは大好きだったんで、ちょっと試しにレコードも買ってみるかって感じで、町田のディスクユニオンに初めて行って。それでThe Stoogesの『Raw Power』とThe Style Councilの謎の編集盤みたいなのを買いました。その前からThe Stoogesにはハマってて、それと同時進行で60’sのガレージとかモッズカルチャーもすごい好きだったんですよ。Small Faces、The Kinks、The Who、The Pretty Thingsあたりが大好きで、その流れでThe Jamも好きになって。で、The Style CouncilもPaul Wellerだから聴いてみようと思って買いました。でも当時は全然わかんなかったです。「The Jamと全然ちげーじゃん。なんかお洒落じゃん」って(笑)。うそ臭いヒップホップみたいなことやってるのもすげーダセえとか思って(笑)。大人になってから聴くとめっちゃいいんですけどね。それで当時は、スタカンはまったく聴かずに、The Stoogesにのめり込みました。
━━そこからレコードにハマっていった理由は? やはりレコードならではの魅力を感じたんですか?
レイジ:そもそも俺、最初はCDJを持ってなかったので、DJするための道具としてレコードが必要だったっていうのもあるんですけど。でも俺、レコードで音楽を聴くっていう行為自体が好きなんですよね。必ず20分に1回は盤をひっくり返しにプレイヤーの前に行かなきゃいけない束縛感も含めて。正直、音質はそこまで重要視してないです。
あと、やっぱ俺、どれだけサブスクが普及しても、レコード屋で探した時の出会いとか、お店が書いてるキャプションのサジェストには勝てないと思うんですよ。 買う気がなくても店に行ったら買っちゃったり、何の予備知識もなしに突然出会えたりするじゃないですか。で、“ハズレ盤”も含めて自分の棚に残っていく感じ。それが自分の人生の映し鏡になるっていうか。
だから俺、最初にThe Stoogesとスタカンを買ったのも運命的だなって思ってるんですよ。もし俺がサブスクでその2バンドに出会ってたら、The Stoogesは繰り返し聴くけど、スタカンの方は「良くねえな」って思って、それで終わりじゃないですか。データからも記憶からも消え去って、また出会い直さない限り、もう聴くことはないっていう。でも俺はフィジカルで買ってたから、良くなかったアルバムも家の片隅にはずっとあって、なくならないんですよ。それで10年くらい経って改めてスタカンを聴いてみたら良かったっていうようなことがあるわけで。でもサブスクの場合、10年前に聴いて良くなかったもののことなんか絶対覚えてないじゃないですか。そこがフィジカルとの明確な違いだと思うんですよね。だから俺は、サブスクで聴いていいなって思った曲は、必ずダウンロードで買うようにしてます。買えばローカルデータに残るし、いつでもDJで使えるようにしておきたいんで。やっぱ“買う”っていうアクションがひとつ入るだけで全然違いますよね。
とはいえ、サブスクがリアルな世代はサブスクで聴くのが一番いいと思うし、CDがリアルな世代はCDで聴くのがいいし、やっぱその時その時のリアルが絶対に一番いいと俺は思ってて。だから、べつに今無理にレコードを買う必要はないとも思ってます。よく「レコードプレイヤーってどれ買ったらいいですかね?」とか聞かれますけど、そういう人には、べつに買わなくていいよって止めてますもん(笑)。「レコードは場所も取るし、上に物も置けないし、重いのにデリケートだし、最悪だよ? 引越しの時にもなかなかダンボール見つかんないよ?」って。でも、そういうこと言うと、聞いてきた本人は大体買いますね。止めれば止めるほど買う(笑)。聞いてきてる時点でもう既にちょっと憧れちゃってるんですよ、レコードに。
━━いま所有しているレコードの枚数は?
レイジ:2~3000枚くらいですかね。俺、レコードを売ったことが一度もないんですよ。なので増えてく一方です。こんな無駄なレコードを10枚買うんなら、気合い入れて1枚いいレコード買えばいいのにとか思ったりもするんですけど、買っちゃうんですよね。レコード収集癖はれっきとした病気だみたいなことをどっかの大学が発表したのをちょっと前に読みました(笑)。
━━レコードコレクションはどのように管理してるんですか?
レイジ:ジャンルとか、DJでよく使うものっていう感じでラックを分けてます。ABC順にまではなってないですけど、何がどこにあるか大体わかるくらいにはなってますね。たとえばRoc-A-Fella Recordsとか2000年代のヒップホップ、R&Bは12インチでもスリーブがちゃんとあるんで、同じスリーブのものをまとめておけば、背が全部同じ色だからパッと見分けがつくじゃないですか。そんな感じで、俺は基本的にはちゃんと分けるタイプなんで、逆に見つからないものがたまにあると焦りますね。気になってめっちゃ探しちゃいます。
━━レイジさんは、最近はUSBでDJをすることが多いみたいですが、今もアナログでやることはありますか?
レイジ:最近は求められてるプレイがUSBでやるような内容なので、そういう現場が増えてますけど、本当はアナログでやりたいですね。やっぱレコードでDJする方が断然楽しいんですよ。USBは小さくて本当に便利だし、BPM順にソートもできるから、DJやってて最悪な状況には陥らないというか、簡単に60分こなせるような安心感があるんですけど、レコードの場合はスリリングじゃないですか。「やばいやばい、次どうしよう」って暗闇の中で「あの盤の何曲目がアレで・・」とか探して。そういう作業の煩雑さも含めて面白いんですよ。持ってきたはずのレコードが見つからないとか、中身が入ってないとか、トラブルがあるとやっぱ焦るし。でも、そんな状況から奇跡的な繋ぎができたり、自分でも想像しなかったようなミックスが生まれたり。そういうライヴ感があるからレコードのDJは楽しいです。
━━オリジナル盤へのこだわりはありますか?
レイジ:あんまりないんですけど、たとえばレッチリみたいに本当に影響を受けたバンドだったら、再発じゃなくオリジナルで持っていたいっていうのはありますね。ついこないだもSocial Distortion『White Light White Heat White Trash』(1996)のオリジナルを9,000円くらいで見つけて買ったんですよ。で、2011年の再発盤だと3,000円くらいなんですね。超絶妙じゃないですか、そこの差って。あと6,000円出せばオリジナルが買えるのに、ここで再発にいくのはなんか癪だなと思って(笑)。べつに聴ければいいし、なんなら96年のアルバムなんてレコードで持ってる必要ないと思うんですけど、でもやっぱ作品へのリスペクトなのか、持っておかなきゃみたいになっちゃうんですよ。それが問題なんですけど(笑)。しかも、90年代以降の作品だったら、オリジナルも再発も音質面での差なんか絶対ないじゃないですか。でも逆に、ほとんど同じなんだったらオリジナルが欲しくなっちゃう。
それが60年代のオリジナルと2010年代の再発だったら、まるっきり別物だから再発でいいやって諦めがつくんですよ。だから俺、あまのじゃくかもしれないですけど、The Rolling StonesとかThe Beatlesのオリジナルにはまったく興味ないんです。ていうか、そこ集め始めちゃったら終わりに向かってくなっていう気持ちがあるんで(笑)。自分の中にそこの線引きがあるのは、良くも悪くもオリジナル盤の奥深さを知っちゃってるからかもしれないですね。例えるなら、スニーカーでも行けそうな水溜まり程度なら入るけど、スニーカーじゃ絶対無理な沼地は回避するって感じです(笑)。足が抜けなくなっちゃうから。
━━最近もレコードショップには行きますか?
レイジ:時間さえあれば行きますね。とはいえ、自分にとって一生モノのアルバムとか、これはレコードで持っておきたいっていうようなものはもう10年くらい前に大体買い尽くした感があるんですよ。なので今は、店に行くときは未知のものとの出会いを求めに行ってる感じで、謎のレコードばっかり買ってます。
━━お店に行った時にチェックするジャンルなどは決まってるんですか?
レイジ:それは特に決めてないですけど、面出しされてるレコードを見るっていうのは大事にしてます。そのお店がどういうものを面出しするに値するレコードとして選んでるのかで、なんとなく趣味やセンスがわかるじゃないですか。だから、実はこの企画のオファーをもらった時も、ELLA ONLINE STOREでプッシュされてるレコードを見て、自分が好きなものが多かったんで、これなら選盤も困らなそうだなと思ってお受けしたんですよ。
━━それは光栄です。ちなみに、最近お店で偶然出会ったレコードで何か収穫はありましたか?
レイジ:えーと…Marcel Duchampとかが参加してる現代音楽のオムニバスがあって、それはめっちゃ良かったんですけど、タイトル忘れちゃったなぁ…。なんかMeredith Monkの『Turtle Dreams』をもうちょいノイズっぽくした感じの内容なんですけど。
あと、これは数年前なんですけど、ニューヨークのレコード屋で適当に買ったDominique Lawalréeっていうミニマル・アンビエントの人の『First Meeting』っていう編集盤ですね。ジャケの雰囲気がすげえ良かったんで買ったんですけど、マジで無人島級に気に入ったんで、ことあるごとに挙げてます。
━━え、そうなんですか! Dominique Lawalréeなら、今ELLA ONLINE STOREにオリジナルアルバムが何枚か出てますよ。なのでここ(ELLA RECORDS VINTAGE)で現物が見られます。
レイジ:えっ!マジですか?!どれがあります? もしあったらガチで欲しいんですけど(笑)。
※というわけでDominique Lawalréeを数タイトル試聴していただいた結果、『Vis A Vis』(1979) のベルギーオリジナル盤をその場でお買い上げ。レイジさんも大喜びでした。ありがとうございます!
━━じゃあインタビューに戻りましょう。本当に欲しいレコードはほとんど手に入れてしまったということですが、今のレコード・ウォントリストのトップを強いて挙げるとすれば、何かありますか?
レイジ:今のDominique Lawalréeは、あるわけないけど、どっかで見つかったらいいなくらいの感じで、心の片隅にはあったんですよ。まさか見つかるとは思わなかったんでめっちゃ嬉しいです。あとは、さっき話したSocial Distortionも、本当はこの企画で探そうと思ってたけど、直前に見つけて買っちゃったんですよね。
だから、ずっと探してるようなレコードって、もうあんまり思いつかないんですけど・・それでも俺がレコード屋に行っちゃうのって、まだ出会ったことのないものに出会いたいからなんですよね。だから今の俺は、何か特定のものを探してるっていうよりも、そういう出会い自体を探してるって感じです。
━━ウォントリストのトップは“出会い”。かなりの名言が出ましたね。では、そんなオカモトレイジさんにとって“良いレコードショップ”とは?
レイジ:難しいなあ。お店の人が優しいことですかね。俺、ツアーで47都道府県回ったりしてるんで、日本全国のレコード屋さんに行けるから、すごい勉強になるし、面白いんですけど、つんけんしてるところでいい出会いがあったイメージはないです。俺は自分から積極的に店員さんに話しかけにいくタイプではないですけど、やっぱコミュニケーションをワンクッション入れてくれる人がいるお店はいい印象ありますよね。たとえば「そういうのが好きならこういうのもあるよ」って教えてくれたり、レジで「これインストだけど大丈夫?」って確認してくれたりとか。そういう、お店の人に“売る姿勢”がある感じ。
それこそ、前にシアトルのレコード屋さんに入って、何かその土地に縁のあるレコードが見つかったらいいなと思って、時間がない中でバーッと見たんですけど、何も見つけられなくて出ようとしたんですよ。そしたらお店の人が「もう1箱あった」って奥からレコード出してきてくれて、その中にThe Sonics(シアトル近郊出身)の「The Witch」のオリジナル盤があったんですよ。しかもすげえ安値で。お店の人の気遣いのおかげでそういう出会いがあったっていう。
でもやっぱ俺は、いい店悪い店とか関係なく、とにかく店に行くっていうことがめっちゃ大事だと思ってます。買わなくてもいいからとりあえず行ってみて、それぞれの店のカラーとか空気を感じるのが大事だなって。
━━最後に、日本中のレコードショップに行かれているレイジさんがオススメしたいお店を教えてください。
レイジ:東京以外で一番好きなのは、仙台にある「STORE15NOV」っていうお店です。ここは本当にヤバいっすね。とにかくノイズ、アヴァンギャルドに強くて、2~3000枚レコード持ってる自分でも、知ってるアーティストのレコードが1枚もないくらいマニアックです。こういうお店は他にないと思います。
あと、広島に行ったら「STEREO RECORDS」には必ず行きます。店主の神鳥さんは俺のDJの師匠の師匠で、公私ともによくしてもらってるんですよ。
福岡の「Jungle Exotica」、熊本の「Record House Woodstock」、松山の「MORE MUSIC」も好きですね。機会があればぜひ行ってみてください。