- まずはじめに、おそらくもう数え切れないほどされてきた質問だと思いますが、Smooth Operatorsというユニット名はSadeの楽曲が由来ですよね? あなた達はハウス/テクノ主体のユニットですが、この曲やSadeに特別な思い入れがあるのですか?
L:はい、その名前はシャーデーの楽曲から来ています。母親たちの影響で、子どもの頃からずっと身近にあった曲なので、「Smooth Operator」は自分たちの中に深く根付いた存在なんです。
この曲と自分たちを結びつけているのはジャンルではありません。むしろ“姿勢”や“感覚”に近いものですね。エレガンスやコントロール、そして意図を持つこと。そういったところに惹かれています。
Smooth Operators とは、音楽とどう向き合い、どう緊張感を生み、音の流れの中をどう進んでいくかという、自分たちの考え方そのもの。特に二人でDJブースに立っているとき、その感覚が強く表れるんです。
- 今回のミックスに込めた思いやアイデアについて教えてください。
M:正直なところ、このミックスは事前にしっかり準備していたわけではありません。ライブ録音をするときは、きっちりした構成を決めるというより、お互いにゆるやかなテーマだけを共有することが多いんです。
今回は、「ディープでありながら生々しいもの」を同時に探っていく、そして音楽が自然とその方向へ展開していくのに身を任せる、というのがアイデアでした。完成度の高い、作り込まれた物語を提示するというより、その場の瞬間や、二人で共有した感覚を切り取ることを大切にしています。
特定のシチュエーションやピークタイムの高揚感を必要とせず、一日のどんな時間帯にも自然と聴けるようなものになれば、という思いでした。
- ユニットでDJをする際に持ち寄るレコードは、MassaïさんとLamaliceさんそれぞれが自分の所有するレコードから別々に選んでいるのですか?
L:たいていは、「で……今回はどこに持っていこうか?」みたいな、とてもシンプルなメッセージから始まります。そこからいくつか方向性を投げ合うだけで、だいたいそれで十分なんです。
ジャンルやサブジャンルの幅がかなり広がっている今だからこそ、言葉にしなくても通じる共通の感覚や暗黙のコードを、私たちは多く共有していると思います。
- 選曲やセットの方向性について、事前にどの程度擦り合わせを行っていますか? プレイへのアプローチ方法について教えてください。
L+M:私たちはもう長い年月を一緒に過ごしながら進化してきていて、今では年間の公演のほぼ半分がデュオでの出演になっています。そうした積み重ねがあるので、二人でやるときの“仕組み”はすでにしっかりと出来上がっているんです。その歴史が、デッキの前に立ったときの大きな信頼感につながっています。お互いがどう考え、どう反応するかは、ほとんど分かっていますからね。
準備はそれぞれ別々に行い、その日のシチュエーション(昼か夜か、屋内か屋外か)に合わせて大まかな方向性だけを共有し、あとは自然な流れに任せます。スムーズに感じられる状態にするには、集中力としっかり聴く姿勢が欠かせませんが、いちばんの楽しみは、その日に相手が何を持ってきたのかを発見する瞬間です。
ビートに身を委ねて進んでいき、途中で予想外の展開が起きたときこそ、たいてい一番面白いところなんです。
- 二人組だからこそ生まれる化学反応はありますか? また、ユニット内でお二人それぞれの役割分担やキャラクターの違いがあれば教えてください。
L:決まった役割があるわけではなく、あるのはその瞬間ごとの流れだけです。最初の一曲はいつもLamaliceがかけて、最後は必ずMassaïが締める。それ以外は状況次第ですね。どちらかがテンポを上げれば、もう一人が少し落ち着かせることもある。片方が扉を開き、もう片方がどの扉を開けたままにするかを選ぶ、そんな関係です。
私たちの個性は対立しているのではなく、少しずれている。そのわずかなズレこそが、音楽を前に進ませる原動力になっています。DJブースは「パフォーマンス」というより、むしろ会話に近い場所なんです。
- お二人はフランス出身ですが、日本のクラブシーン/DJカルチャーについてどう思いますか? フランスやヨーロッパとの違いがあれば教えてください。
M:私たちの視点から見ると、日本には、これまで体験してきた中でも特に刺激的なアンダーグラウンドのクラブカルチャーがあります。あらゆる面において配慮と精度が行き届いていて、サウンドシステムは完璧に調整され、デッキも万全な状態。空間演出もよく考えられていて、没入感があります。アーティストにとってもダンサーにとっても、最高の環境をつくろうと、関わる人たちが本気で心を注いでいることがはっきり伝わってきます。
特に印象的なのは、「技」に対する徹底した向き合い方です。これまでに観てきたローカルのアクトは、どれも選曲が丁寧に練られていて、技術レベルも非常に高い。細部への敬意、音への敬意、そしてDJを“職人”として捉える姿勢が、文化として深く根付いています。
そうした日本のアプローチは、私たち自身を含め、ヨーロッパのアーティストにも大きな影響と刺激を与えてきました。完璧さがエゴのためではなく、音楽や場への献身から生まれている——その姿勢を、私たちは心から尊敬しています。
- Massaïさんは「Sentaku(選択)」「Shin’uchu(深宇宙)」という名のレーベルを主宰し、Lamaliceさんの作品もSentakuから多数リリースしています。しかも、リリース作品名も「Tokugawa Ienari(徳川家斉)」「Hattori Hanzo(服部半蔵)」「Araki Murashige(服部半蔵)」など、日本の歴史上の人物や日本語タイトルが多くて驚きました。日本の歴史や文化に強い関心を持っているのですか? 日本のどんなところに魅力を感じるのでしょう?
M:はい、そうした引用の背景には、日本文化に対する長年にわたる純粋な関心があります。私たちにとって日本は、規律や精度、そして象徴性と深く結びついた存在です。そうした価値観は、音楽に向き合う私たちの姿勢とも強く共鳴しています。私たちが使っている名前や言葉は、歴史的な事実をそのまま示そうとするものではなく、雰囲気や意図、そして「意味」や「細部」を重んじる文化への敬意を示すための指標のようなものなんです。
特に魅力を感じているのは、「ものづくり」との向き合い方です。忍耐強さ、道具を極めていく姿勢、そして過剰さではなく節度の中にこそ深みが生まれる、という考え方。音楽に限らず、デザインや広い意味でのアート表現においても、「すべての選択に意味がある」という感覚が通底しているように感じます。
そうしたマインドセットは、SentakuやShin’uchuでのリリースをキュレーションする際の私たちの考え方とも強く重なっています。慎重な選択、明確な意図、そして音楽そのものが語るための余白を大切にすること。
力強さと繊細さ、伝統と実験性。そのバランスこそが、日本から常に受け取っているインスピレーションであり、それを私たちは音楽だけでなく、ビジュアル・アイデンティティにも反映させようとしています。
- お二人にとって、DJとして大切なマインドとはどんなものですか?
L:私たちの考え方はとてもシンプルです。プレイして、実験して、リスクを取ること。自分たちが本当に楽しんでいれば、その感覚はフロアにも伝わり、エネルギーとして必ず返ってきます。
何より大切なのはオーセンティシティ(本物であること)。自分を必要以上に真面目に捉えすぎると、即興性は失われてしまう。DJは誰かを真似ることではなく、奥行きや可能性に満ちた風景の中で、自分自身の声を見つけていく行為なんです。
そして何より、自分のルーツや出自を忘れないこと。周囲の人たちをリスペクトし、共にいるすべての人から受け取るインスピレーションに感謝すること。それが、私たちにとってのDJingの本質です。
- 2026年は、どのような計画がありますか?
L+M:2026年は、これまで積み重ねてきたものをさらに深め、創造し、探求していく一年になります。中でも大きな軸となるのが〈Sentaku〉です。音楽面でもビジュアル面でも、自分たちのやり方でそのアイデンティティをかたちづくりつつ、セルフリリースだけでなく、レジデントやファミリーと呼べる仲間たちとのコラボレーションにも広げていきたいと考えています。次のレコードはすでにほぼ完成していて、私たちのホームシティであるパリ出身の才能あるアーティストをフィーチャーしています。これは自分たちにとって、とても意味のあることです。
また、Rinse Franceで新たなレジデンシーもスタートします。LamaliceとIll Spleenというレジデントとともに、定期的なラジオ番組やショーケースを行っていく予定です。ここはアイデアを試したり、親しいコラボレーターを招いたりしながら、コミュニティに根ざした形で即興性を保てる大切な場になります。
さらに、Smooth Operatorsとしては、ヒップホップから強い影響を受けたミニLPにも取り組んでいます。よりパーソナルで実験的な作品で、私たちが本当に愛してきたものの自然な延長線上にあるプロジェクトです。
全体として2026年は、焦ることなく、しかし確実に前へ進んでいく年。信頼と好奇心、そしてこれまで共有してきた時間や歴史を土台に、音楽が自然に育っていくのを大切にしたいと思っています。
そして最後に、日本で最近経験した時間には、心から感謝しています。本当に“祝福”のような体験でした。そこで出会ったエネルギー、人々、そしてものづくりへの真摯な姿勢は、これからも長く私たちの中に残り、今後の活動にも大きな影響を与え続けるはずです。