- SHIHOさんはDJとして長年のキャリアがありつつ、現在はヨガを本業にされてらっしゃるということで、まずは簡単な自己紹介をお願いします。
インドの伝統的なAshtanga Yoga(アシュタンガヨーガ)というのを二十数年学んでいて、現在は福岡を拠点にインドに通いながら、正式指導者として活動しています。最近はYogaが主軸の生活になったので、DJの方はあまりコミットできていないんですが、DJとしてのキャリア自体は、やり始めてからで言うと30年くらいになります。
- 今回のミックスに込めた思いやアイデアについて教えてください。
最近DJをする時や曲に向かう時のテーマがあって、それは“祈り”なんですね。インドに行ってなおさらそれが強くなったという背景もあるんですが、今回も“祈り”がテーマの一部としてあったと思います。
- 今日プレイした中で、特にかけたかったレコードや皆に紹介したかったものがあれば何枚か教えてください。
今日どうしてもかけたいと思っていたものがいくつかあって、そのうちの1枚がTerry Riley & Don Cherry Quartetの『Köln, February 23, 1975』という作品です。Don Cherryと一緒にやっているので、テリー先生単体での作品よりもジャズがベースになっていて、でもTerry Rileyという人が経験してきたインド古典のメロディや楽器の音がこの中にはすごく入っているように私は感じるんです。そういう個人的に思い入れがある作品なのに加え、今日は昼間の収録だし、これからすごくいい季節だしということもあって、これはかけたいなと思っていました。
もう1枚はSteve Reichの『Tehillim』です。これは高校生の頃、当時好きだった人が教えてくれて知った作品なんですが、その人が葬式の時にかけてほしい曲なんだと言っていたのをすごく覚えていて。たしかにこの曲でループしている女性の声って、チャーチの中でずっと聴こえているような感じがあって、言葉の意味は理解してないんですが、すごく祈りを感じるんですよね。それで最近DJをする時はいろんなところでよくかけています。
それと昨日「どこいったっけ?」と必死に探した1枚があります。Innerzone Orchestraの『Programmed』というボックスセットになっている99年のアルバムがあって、全曲好きなんですが、その中でも「Architecture」という曲が昔から大好きで。タイトルのイメージよりも壮大なサウンドの中にすごく深い低音やキックが入ってくる感じにハッとさせられる、すごく印象深い曲だと思います。20年前くらいはむちゃくちゃかけてたのでもうボロボロになっちゃってますけど、久しぶりにかけたいなと思って、今日持ってきました。
- ヨガに出会ったことで、普段聴く音楽の傾向やDJの内容、あるいは音楽そのものへの向き合い方に変化が生じたりはしましたか?
音楽というと“音を楽しむ”ということがよく言われますが、私の周りには、その“楽しむ”という部分を省いて、どちらかというと音の探究に向かっている方が多い印象があるんですよね。だから私自身も、音楽を通してもっと音の探究をしたいという思いがずっとあります。そのためにはもはやDJというものにもこだわっていないし、DJ以外にも音を探究する方法は色々あるなと感じています。
- 長年ヨガと音楽に接してこられた中で、両者に何かしらの共通項を見出したりはしますか?
音楽の探究とYogaの探究は同じです。スピリチュアル・プラクティスであり、使うツールが音か肉体か...それ以外なのか、ただそれだけの違いです。音を使うYogaはNada Yoga(ナーダヨーガ)と言います。
インド古典音楽ラーガのGuru(Terry Riley師の師匠)Pandit Pran Nathは、ドキュメンタリー”In Between The Notes"でこう言い残します。
”Wtihout spiritual help music don't give effect music will be music but some special effect making spiritual help to the musician"
文脈がインド英語なので要約すると、
「音楽だけでは本当の効果は出ない。音楽は音楽のままだが、スピリチュアル(霊的・精神的な)な助け・つながりがあることで、ミュージシャンに特別な効果(力・深み)が与えられる」
そしてその後にクリシュナ神のシュローカを出しLove and Devotionという言葉が出てきます。おそらくこれはBhagavad Gita(バガヴァッド.ギータ)9章26節を指していると思われます。
पत्रं पुष्पं फलं तोयं यो मे भक्त्या प्रयच्छति ।
तदहं भक्त्युपहृतमश्नामि प्रयतात्मनः ॥
葉一枚、花一輪、果物一つ、水一滴でも、
愛と献身(bhakti)を持ってクリシュナに捧げる者には
私はその純粋な心からの捧げ物を喜んで受け取る
このLove and Devotionという言葉は、神(クリシュナ)への完全な信頼、服従、心、日常のすべての行動を神に捧げる姿勢と無私の愛、献身的な愛の事を指しています。音楽を神への捧げ物と見なし、演奏者にbhakti(献身)がなければ本当のrasa(味わい・霊的効果)が出ない。エゴを捨て、純粋な心で芸術・音楽そのものを愛し献身を持って全てを差し出すことで、音楽がただの音から霊的な力を持つものになる、というメッセージが込められています。
Yogaも音楽も、かつての私達が大切にしてきた祈りと愛そして敬意を持つ事で初めて真に受け取ることが出来るのです。
- SHIHOさんはインドでのDJも度々経験されていますが、インドのクラブミュージックシーンやクラブカルチャーはどのようなものですか?ユニークに感じた点などもあれば、それもぜひ教えてください。
私がDJツアーで回ったのは2013〜2014年で随分昔です。2012年にBLACK SMORKER RECORDSのコンピレーションアルバム“LA NIN”用に制作したものが12インチでもリリースされた辺りだったのでプロモーションもし易かったんでしょうね。
インドを旅する中で出会ったインド人の友達がマネージメントしてくれてMysore、Bangalore、Mumbai、Goaを周りました。それまでのインドで日本人(アジア人)女性がDJをした事はトランスシーンを除きおそらく無かった様で、そしてDeep TechnoやDeep Houseで構成されるsetをするDJ自体がほんの少数だった頃です。
コロナ辺りからインド人ミュージシャンやDJが勢いを持ち、今や世界で活動していますが、あの頃はインドでまともなDJ機器を持っている人がおらず、皆んな西洋人が置いて行った安くてボロボロの機材を使い、曲を作っていたり、貰ったデータでDJしていました。私のPlayを聴いてか噂を聞いてなのか、沢山のインド人の男の子たちから“俺の曲を聞いて欲しい”、“どうやったらもっとスキルアップするのか”、と連絡をもらいましたね。
ハングリー精神が強く、行動力と吸収力が素晴らしいと思いました。同時に日本は抜かれるなとも。インドの勢いや成長は少子化が進む日本を追い越すだろうなと。実際に今のインドは20代が最も多いと言われ、故に社会的経済的にも急成長を果たしています。
強い太陽のもと、前を向く若者の勢いが加速する国は可能性と生き延びる生命力に漲っている。
- 普段はデジタルのDJもされていると思いますが、レコードでDJをやることの魅力はどんなところにあると思いますか?
レコードの魅力はまずは音質です。アナログならではの柔らかさと太さが音にある。
その次にジャケット!素晴らしいアートが沢山ある。
あと、丸い事。円になっているものの発するエナジーは途切れることが無い、続いて行くものだから好きなんです。
- あなたにとって、DJとして大切なマインドとはどんなものですか?
表に立つ事になる時って、その人にフォーカスが行く事が増えるのですが、そのような立場に置かれても、物事や周囲に敬意と感謝を持ち続ける事。
- DJとしてのキャリアをこれから始めようとしている方々に向けて、何かアドバイスはありますか?
自分の為に行動しているのか、音楽を愛する故に行動しているのか。
進もうとする道が利己的か利他的かで大きく別れる。
音楽に献身的な愛を持ち続けて欲しい。
- 2026年はどのような計画がありますか?
Terry Riley師の元でラーガを学び練習を続けることと、
録り貯めたインドの音やフィールドレコーディングしたものを編集してまとめたい、
祈りの力強さをシェアする事で、私達の願いであるNon Violenceを見る為に。
- 最後に、今日は福岡・薬院の「Music & Pub FOOLS GOLD」さんをお借りしての収録でしたが、こちらでプレイしてみていかがでしたか?
DJブースの正面にお店のスピーカーがあるので、自分自身もこの開放的な空間で音を浴びながらプレイできて、すごく楽しかったです。ありがとうございました。