AFTER HOURS SESSION

Midori Aoyama

DJ setlist
1. John Coltrane / Naima
2. Shirley Scott & Stanley Turrentine / Flamingo
3. Bobby Hutcherson / Color Schemes
4. Betty Lou Landreth feat. Emmanuel Riggins / Emmanuel’s Way
5.  Nubya Garcia / Stand With Each Other ft. Ms Maurice, Cassie Kinoshi, Richie Seivwright
6.  Dora Morelenbaum / Não Vou Te Esquecer
7.  Skymark / Segundas Impressões
8.  JAB / Currents
9.  Sade / War Of The Hearts
10.  Voision Xi (喜辰晨) / Ladders (梯子)
11.  Makaya McCraven / The Way Home
12.  Flora Purim / Black Narcissus
13.  Deniece Williams / Free


-今回のDJセットのテーマやアイディアについて教えてください

ジャズの中から普段クラブではかけないようなものをミックスしました。何パターンか出来るように色々とレコードは用意してきました。ブラジリアンだったり、アフロだったり、南半球っぽいムードのものをまとめてみたり。あとは、一人のミュージシャン縛りでミックスするのも面白いかなと思ったり。でも悩んだ結果、今自分が一番好きな音源だけを普通にかける形に落ち着きましたね。いつもホテルやラウンジでやっているセットの延長線上というイメージです。

 

-今回のセットは、古い時代の音源から現行のサウンドに移行し、また古いものに戻るという構成でしたが、プレイした中でMidoriさんにとって会心の選曲やキーになった楽曲はありますか?

その場のフィーリングで選曲していったので、予め構成をしっかり意識していたわけではありませんが、1曲選ぶならFlora Purimの「Black Narcissus」(1977) ですかね。オリジナルはJoe Henderson(1969) で、これはだいぶ後に出たものですけど、ここにもJoe Henderson本人が参加してます。この曲のようにジャズの曲をブラジルのアーティストがやっているというような絶妙なフュージョン感を持った音楽が僕は好きなので、今回もそういうものはかけたいなと思っていました。

あと、Betty Lou Landreth「Emmanuel’s Way」(1979) を7インチでかけましたが、この曲を境に旧譜から新譜に移行する流れを作りました。音源自体は古いものなのに、リイシューされて音が今の質感になっている曲というのが結構あるんですよ。そういうものは古い曲と新譜の橋渡し的な役割で使いやすいので、意識してたまに買ったりもしています。僕は普段の現場ではデジタルとヴァイナルを両方かけるタイプなので、デジタルとヴァイナル、新しいものと古いものといった境界線を意識して選曲することが多いですね。


-DJの際にオリジナル盤でプレイすることへのこだわりはありますか?

特にありませんね。基本的にはDJをするためにレコードや音源を集めているという意識があるので、音質や“鳴り”がいいかどうかを重視して選びます。オリジナルとリイシューを聴き比べた時にリイシューの方が音がいいこともあるので、必ずしもオリジナルが正義だとは思っていません。逆に、リイシューの音質に満足できなくて、後からオリジナルを聴いたら音が良かったので買い直すこともあれば、先ほどのBetty Lou Landrethのようにリイシューの音質が今に合っているといったケースもあったりするので、本当に物によりけりです。

 

-今回のようなリスニングスタイルのDJをやる機会も多いですか? その際、普段とアプローチの違いはありますか?

多いですね。現場だけでなく、毎週月曜日にインターネットラジオのTSUBAKI fmで番組(MONDAY TSUBAKI) をやっているので、そこでも色々なジャンルの曲をかけさせてもらっています。アプローチ自体は特に変わりませんが、ラジオの場合はゲストがいらっしゃるので、その方のバックグラウンドを調べたり、過去のミックスを聴いたりして、その方に呼応した選曲をするように意識はしています。アンビエントが得意なDJだったら自分もアンビエントを多めにかけようとか、ブラジルの方だったら自分もブラジリアンを織り交ぜようとか。逆に、今回のように真っさらな状態で選曲を考えるのは意外と難しかったりもします。

-今回持ち込んでいただいたミキサーについて簡単に紹介してください

去年発売されたAlphaTheta(旧Pioneer DJ)の「euphonia」というロータリーミキサーです。まずロータリーなので触りやすさがフェーダーとは全然違いますし、中に入っているニーヴ(Rupert Neve Designs)のトランスミッターがいくつかの帯域をすごくタイトにしてくれるので、音が締まって聴こえます。今回のDJは配信だったので、アナログの温かい音を出しつつも、YouTubeなどのデジタル環境で聴くにはある程度音がクリアに聴こえることも大事だと思って、このミキサーを使いました。今は全部がアナログの現場ってなかなかないじゃないですか。何かしらデジタルが入っているので、そういう意味では、アナログとデジタルが混ざった回路を持ったミキサーというのは理にかなってますし、これはすごくいいなと思います。

-普段、どうやって新しい音楽を探していますか? レコード店で探すのが楽しいですか、それともオンラインでの購入を好むようになりましたか?

直接お店に行って探すことが99%くらいです。事前にリリース情報などを調べてピンポイントで買いに行くのではなく、お店に並んでいるものをチェックして、試聴して買うタイプです。

 

-ではレコードショップにはかなり頻繁に行かれるんですか?

週に1回行けたらいいかなという程度です。レコードを掘るのって、よく趣味とか遊びのような感覚で語られがちですけど、意外と疲れるじゃないですか。だから僕はレコードを掘る日を決めるようにしていて、この日に行くと決めたら、昼過ぎから夕方まで5時間くらいずっと掘ってます。それで20枚くらい買いますね。

 

-いつもルーティーンで巡るレコードショップは決まっていますか?

渋谷に行く場合は、HMV record shop、ディスクユニオン、Face Recordsが基本で、行けたらLighthouse Recordsでハウスも見ます。新宿の場合もHMVとユニオン、行けたらダブストアというのが基本ですね。ELLA RECORDSは家から近いので、いつも最初か最後に行ってます。

-DJ活動以外で、あなたのクリエイティビティを刺激するものは何ですか?

旅かもしれません。DJで色々な場所に行って、色々な人に出会ったり、色々な物を見たりするというのは刺激になります。地方でレコードを買うのも好きですね。

 

-地方のレコードショップでお気に入りのお店はありますか?

金沢のeveryday recordsと福岡のLIVING STEREOはセレクトや選曲のセンスが好きですね。最近はなかなか行く機会がありませんが、金沢と福岡を訪れる際はまた伺いたいです。

 

- DJとしてのキャリアをこれから始めようとしている方々に向けて、何かアドバイスはありますか?

これから趣味でDJを始めたいという人に向けては、とにかくたくさん音楽を聴いてほしいなと思いますね。特に、現場に足を運んだりして、DJがかけている音楽をたくさん聴いてほしい。それしかないです。人生で聴ける音楽の量には限りがあると思うので、できるだけ時間を無駄にしてほしくない、音楽が聴ける時間を大事にしてもらいたいという気持ちがあります。

プロのDJを目指したい人に向けてのアドバイスとなると、もう少しシビアな話になりますね。DJとしてどうやってお金を稼ぐのかという部分と、自分がどういうDJになりたいのか、どんな活動をしていきたいのかというDJとしてのキャリアの部分。その両者のバランスをしっかり考えなきゃいけないというのが、僕自身にとってもこの10年ほどの大きなテーマでした。べつにDJだけでお金を稼がなきゃいけないとは思いませんし、普段別の仕事をしながら稼いで、DJの方の稼ぎは気にしないというスタイルでも、それはそれでいいと思うんですよ。大事なのは、自分の生活のクオリティとDJ活動のバランスをどう取るかということだと思うんです。
たとえば、DJ以外の仕事で収入を得る場合、その仕事に時間を取られれば取られるほど、DJ活動に費やせる空き時間は少なくなります。ただ、お金に余裕があればレコードはたくさん買えます。
逆にDJオンリーでいくのなら、すべての時間をDJ活動に充てられる分、レコードを掘る時間も増えるし、自分を表現する時間も増えますよね。でも、DJだけで食べていくとなると、自分がやりたい/出たいギグだけを選ぶことはできなくなるかもしれない。かといってお金のいいギグばかりを選ぶと、自分の選曲ややりたい音楽ができなくなってしまうかもしれない。
だから、自分がやりたいDJをやるにはこのくらいのお金が必要だ、あるいはお金がない中でも表現者としてこの一線は譲れない、というようなお金とクリエイティビティのバランスを常に考えなきゃいけないと思いますし、それが僕にとっては“プロ”なんだと思います。


- 2025年は、どのような計画がありますか?

7月には、以前AFTER HOURS SESSIONにも出ているBIBちゃんと相方のMOEちゃん(MOE FURUYA)の“ビブモエ”のジャパンツアーをTSUBAKI fmでオーガナイズしているので、そのサポートをやります。7月、8月以降もTSUBAKI fmでそういったイベントや放送を随時やっていくのでチェックしてください。

ブログに戻る
Midori Aoyama

東京生まれのDJ / プロデューサー。2012年に自身がフロントマンを務めるイベント「Eureka!」を通して気鋭の来日アーティスト公演を数多く手がけ、日本のハウスミュージックシーンにおいて確かな評価を得る。DJとしての活躍は国内外と多岐に渡り、Fuji Rock (日本)、Wonderfruit (タイ)、そしてShi Fu Miz (香港)などの大型フェスティバルから、ロンドン、パリ、アムステルダム、ミラノ、メルボルン、ソウルなどの世界のダンスミュージックシーンの主要都市でも活躍。ハウスを軸に、ジャズやソウル、アフロ、ラテン、フュージョンなど、新旧問わずあらゆるジャンルを独特のセンスとスキルでクロスオーバーさせていく。2015年にはEureka!も音楽レーベルとして始動。世界的ヒットになった「Crackazat - Coffee Time」を始め、温故知新のハウスミュージックを象徴する数多くのリリースを手がけた。現在はインターネットラジオ「TSUBAKI fm」を主宰し、ワールドワイドな知覚と巧緻な探究心でニッチなリスナーを惹きつけ、日本のローカルから世界へと絶えることなく音楽を発信し続けている。場所や時間、世代やジャンルのギャップを垣根無くスムースに乗り越える唯一無二の存在として、着実に、そして確実に。新しい形を持つ音楽家としての像を自らの手で作り上げている。

TSUBAKI fm
http://tsubakifm.com