落語はJAZZだ
落語はジャズに似ているとよく言われます。同じスタンダード曲でもプレイヤーによって演奏やアレンジが異なるのと同様、落語の古典も噺家それぞれの解釈やアプローチで演じ方が変わるからです。噺そのものの面白さだけでなく、そんな噺家それぞれのテイストの違いを楽しむのが落語の醍醐味なので、聴きくらべができるよう、あえて同一演目を噺家違いで並べてみました。現役の実力派を中心に選んだので、気に入った師匠がいれば、ぜひ生の落語を聴きに足を運んでみてください。
-春の古典-
古典落語には、花見や桜が登場する春の人気演目が多数あります。・・が、意外にもストリーミングで配信されている作品数は少なめでした。というわけで今回は、純粋な春の演目だけでなく、通年演じられる噺の中で春向きなものも多少織り交ぜています。プレイリスト前半はいつもどおり同一演目の“聴きくらべ”を四席。後半はシンプルに春の噺を一席ずつ。以下に各演目のあらすじと噺家ごとの簡単な特徴をまとめたので参考にどうぞ。
①長屋の花見
~あらすじ~
貧乏長屋の大家が、景気づけに花見に行こうと住人たちを誘う。だが大家が用意した“ご馳走”は、お酒(のつもりの水で薄めた番茶)、玉子焼き(のつもりのたくあん)、かまぼこ(のつもりの大根の漬物)など、チープな代用品ばかりで……。春の落語を代表する笑い話。
1. 三遊亭兼好‥‥今の三遊亭では筆頭の実力派。明るく軽妙、毒気もありで、いつも楽しい余韻を残してくれる。
2. 瀧川鯉昇‥‥‥高座に座っているだけで思わずクスッと笑ってしまうような“フラ”(天性の愛嬌やおかしみ)がある現役では数少ない師匠。力の抜けた飄々とした芸風なのに、これが実に面白い。
②花見の仇討
~あらすじ~
花見に行くことになった町内の若い衆3人。ただ花見をしたんじゃ面白くないと、花見会場で仇討の芝居を演じて周囲の花見客をビックリさせようと企むが、ハプニングの連鎖から本物の侍を巻き込んだ笑えない展開に……。こちらも春の大定番。
1. 桂文朝‥‥知る人ぞ知るな存在ながら、今もコアなファンの多い文朝師匠。派手な演出など加えず、“普通に”演じてもちゃんと面白いのは、確かな実力あってこそ。2005年、63歳での早逝が悔やまれます。
2. 金原亭馬生(十代目)‥‥今は亡き昭和の名人。父は古今亭志ん生、弟は古今亭志ん朝という二大スターの影に隠れがちながら、柔らかで味わい深い高座は聴くほどにスルメのような魅力が。収録時52歳にしてこの老練の佇まい!
③お見立て
~あらすじ~
舞台は吉原。人気の花魁「喜瀬川」のもとを訪れた馴染み客の「木兵衛」。だが喜瀬川は、田舎者の相手はしたくないと、仮病を使って木兵衛を追い返すよう店の若い衆にわがままを言う。仕舞いには「私は死んだことにしてくれ」と言い出すが、それでも木兵衛は引き下がらず……。板挟みに翻弄される若い衆と木兵衛のやりとりが爆笑を巻き起こす人気の滑稽噺。
1. 林家たい平‥‥‥「笑点」でもおなじみのたい平師匠。正統派の丁寧な演じ方で、わかりやすく、そしてしっかり笑わせてくれる。
2. 春風亭一之輔‥‥人気実力とも若手No.1。正統派ながら随所に現代的な味付けが光る。たい平バージョンとはまったく違う喜瀬川のキャラクターに注目。
④妾馬(めかうま)
~あらすじ~
主人公は、町人の八五郎。殿様の側室(妾)となっていた妹のお鶴がめでたく男の子を出産したという報せがあり、八五郎は大名屋敷に呼ばれる。初めてのお屋敷で勝手がわからない八五郎は、殿様の前でも普段通りのノリでフランクに振る舞い、周囲を戸惑わせる。途中まではただの笑い話だが、最後はホロリとさせる人情噺に転じるのがニクい名作。別名「八五郎出世」。
1. 柳亭市馬‥‥安定感抜群。これぞ王道。衒いのない正統派落語。
2. 入船亭船遊‥‥テンポよく、メリハリの効いた気持ちのいい落語をいつも聞かせてくれる現役屈指の実力派師匠。
3. 春風亭一朝‥‥一之輔の師匠。派手さはないが、落ち着いた味わいでどんな噺も素晴らしく聞かせる、やはり現役屈指の古典の名手。
4. 柳家さん喬‥‥現在の柳家の大看板にして現役最高峰の噺家のひとり。特に人情噺の名手として知られるさん喬師匠だけに終盤の泣けるパートが実に美しい。
⑤花筏(はないかだ)
~あらすじ~
相撲界の看板力士「花筏」が大病を患い、地方巡業に出られない。そこで花筏のフリをして巡業に帯同してくれないかとムチャぶりされたのが提灯屋の男。体系や見た目が似てるからというだけの理由らしい。相撲は取らなくていいと言われたから引き受けたものの、結局は相撲を取る羽目になり……。
◼︎桃月庵白酒‥‥いつ聴いても明るく楽しい余韻だけを残してくれる白酒師匠らしい一席。
⑥たけのこ
~あらすじ~
隣り合う武家屋敷。片方の家の竹が成長し、隣の家の敷地内に筍が顔を出した。果たしてこの筍はどちらのものか……?その所有権を巡って両者が愉快なやりとりを繰り広げる粋で軽めの滑稽話。
◼︎柳家喜多八‥‥虚弱体質キャラで気怠そうなのに、いざ本題に入るとエネルギッシュでめちゃくちゃ面白い。現代を代表する実力派のひとりになったかもしれない喜多八師匠。2016年に早逝されてしまったのがあまりにも残念。
⑦馬の田楽
~あらすじ~
味噌の入った樽を馬に乗せて運んでいた男。だが、馬を待たせて用事を済ませている間に子供の悪戯で馬が逃げてしまう。男は道行く人々に尋ねながら馬を捜し歩くが……。全編いなか言葉で演じられ、なんとも長閑なムードの滑稽話。
◼︎柳亭市馬‥‥正統派の雄による気持ちのいい快演。“すぐ歌う”キャラでもおなじみ市馬師匠の朗々たる歌声が序盤から炸裂してます。
⑧崇徳院(すとくいん)
~あらすじ~
恋の病で寝込んでいる息子。心配した父は、息子が町で見かけて一目惚れしたという女性を探し出してもらうよう息子の友人、熊五郎に相談する。唯一の手掛かりである俳句を頼りに連日女性を探し回る熊五郎だったが……。さながら落語版ラブコメといった噺。
◼︎入船亭扇遊‥‥小気味いいテンポ、メリハリに、粋なムードと艶っぽさ。扇遊師匠の魅力にあふれた一席。
⑨百年目
~あらすじ~
店の若手には小言ばかり。堅物を絵に描いたような番頭さん。だが、そんな番頭さんも裏ではひそかに遊んでいた。ある日、酒に酔った花見の席で盛大に羽目を外しているのを店主に見つかってしまい……。明るい滑稽話から沁みる人情噺へとシフトしながらビジネス本顔負けの「理想の上司」像を描いた名作中の名作。長い上に登場人物も場面転換も多く、真の実力者にしか演じることのできない大ネタ。
◼︎柳家権太楼‥‥当代随一の爆笑派、権太楼師匠は人情噺も唯一無二の味わい。1時間に迫る長講をものともせず、豪快さと愛嬌を振りまきながら、最後は温かい気持ちにさせてくれる。
Playlist, cover art & comments by Mikiya Tanaka (ELLA RECORDS)
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